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ウツボその11! ページ20



誰に何と言われようが現状を変えようとは思わなかった。トレイが恋に弱気になっているのも、トレイにとって私の優先順位がお母様以下であることも気に食わなかった。所詮あの男にはお母様に立ち向かっていく勇気がないのだ。あの美しい薔薇の箱庭から私を攫っていく覚悟が、そこまでの恋の情熱がないのだ。それでいて愛おしげに見つめてくるのだから、本当に嫌な男。

本鈴前で慌ただしい廊下の人混みに揉まれ強く肩をぶつけた。昨日の怪我はまだ癒えておらず朝からずっと痛むのに、こんなに可愛い女の子にぶつかってくるなんて。来世は雑草として生れてくるがいい。そうしたら私が踏んづけて引っこ抜いて除草剤をまいてやるのに。フラフラと廊下の隅に追いやられて少し休憩を取る。

本当は、私に決定権などないのだ。トレイがどんなに悪い男であろうと好きなものは好きだ。あの性格はお母様のせいでああいうふうに形成されてしまったのだから別に彼の責任などではない。ただ自分の弱さを隠す建前として頭の中では好きな男の子を罵って、さらにまたそれを隠す建前として無邪気な女の子を演じ偽り続ける。ずっと言い訳してきたけれど、一番ガキなのも意気地なしなのも他ならない私自身だ。
全ての決定権は私ではなくチェーニャにある。チェーニャが私を揶揄い飽きるまでは、この地獄からは逃れられない。そうしてトレイだけでなくフロイドまで失ったのだ。トレイとのこと、応援してくれていたのに。

彼の後ろ姿が目の前にいるかのようにくっきりと思い浮かぶ。大柄な体躯からは想像し得ないようなヘラヘラ笑う彼が、まるで本当にいるみたい。
私はハッとして廊下を駆け出した。授業が始まるからなんて理由じゃない。あまりにもハッキリと見えた幻影を追って角を曲がった。どんどん人気のない校舎の奥へと進む彼の面影を探しやっとその背に追いついた。

『フ、フロイドっ……!!』

昨日のことなのに長い夢を見ていたせいで随分久しぶりのように思う。息を切らして彼の名前を呼べば、彼は足を止めて立ち止まった。しかし振り返ることはなくもう一度歩み始めようとするので「待ってよ」と彼のジャケットの裾を掴んだ。振り返った彼の眼は冷たく、心の底から軽蔑されていることが分かった。それでもここで怯んで怖じ気づくようでは、私にローズハートの名を名乗る資格などない。はじめからそんなものなかったけれど。

『……ちゃんと、話そうよ』

私が悪かったって、ちゃんと謝るから。

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作者名: | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur  
作成日時:2024年2月15日 21時

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