摩訶不思議なヤツその5! ページ17
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チェーニャには分からなかった。Aがどうしてクラスメイトと喧嘩をしたのか、どうしてその相手を吐かないのかも。リドルやトレイには「もう高校生だしお互いボロボロだからそっとしておけ」とは言われたが、RSAでは日常的に喧嘩なんて起きないし、ましてや女の子相手に乱暴するヤツなんかいない。だから知りたいのだ。
『言ったら何かするつもりでしょ』
「当たり前だにゃあ」
『報復なんてしないでよ。向こうの方が重傷なんだから』
何もしない訳がない。愛しい恋人をこんなふうに傷つけておいて。そんな思惑が透けていたのか、Aは今までよりもいっとう目つきを鋭くした。兄によく似た険しい顔つきに「ふぅん?」と興味を見せた。
「一応聞くがなんで庇うんだにゃあ」
昔は余所の家の男の子に顔を真っ赤にするほど揶揄われて、その時は何もしなかったのに後からトレイのいないところで「あいつの首をおはね」なんて物騒なことをいうような娘だった。今思えばそれも家族の受け売りだったのだろう。
Aは少しだけたじろいで黙り込み、少し間をおいて口を開いた。
『……親友だったの』
彼女が失ったものの重みがそのままズシンと肩にのしかかったような感じだ。あっさりしているようで難解な理由に固まってしまった。「だからチェーニャには関係ない」とシーツに身を隠そうとするAと自分との間の壁を感じ、心には空洞があるのだと知った。
Aの背中に腕を回して肩越しに「おみゃーがそれでええなら構わんよ」と言うと、彼女は安心したのか肩が少し下に下がった。糸を張ったように警戒していたのはその親友の為だったらしい。こんなふうに傷つけるのが、親友。
チェーニャはAの首にくっきり浮かんだ赤い薔薇模様をジイッと見つめて溜息を吐き、少し離れた。Aの全身を一度確認するように見渡した後、再び首元に視線をやった。
「他に怪我はにゃーの」
『ない。あれもそれも返り血だから』
「おーおー、おっかねえ女」
『……ないって言ってるでしょ。何してるの』
Aの胸元でリボンを解いていれば流石に不審がられたのかそう問われた。「触診触診」と適当に言って彼女の身体をまさぐればすぐ真っ赤な顔で平手打ちをされた。潤んだ赤い目を吊り上げて、口を固く閉じてぷるぷる震えて、恥じらっているのが本当に可愛くて仕方ない。ぶたれて痒くなった頬を撫でた。全く痛みを伴わない暴力が愛おしくてふいに笑みを零した。
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作者名:天 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur
作成日時:2024年2月15日 21時