摩訶不思議なヤツその4! ページ16
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次に瞼を上げた時には目に馴染みのない天井を見上げていた。軋む身体をゆっくりと起こせばそこが保健室だということはすぐに分かった。寝ぼけた頭でぼんやりと自分がここにいる経緯を思い出しながら重い頭を抑える。
あの男が昔話なんかするので嫌な記憶まで蘇らせてしまった。トレイくんの馬鹿、と小さく呟いたとき、するりと手からシーツが解けた。耳に風が触れ窓が開いていることに気が付く。
広い保健室の中で不自然にもAの眠っていたベッドのそばの窓だけが開け放たれている。とっぷり日の沈んでしまった星空に不気味なほど真っ白な三日月がポツンと浮かんでいた。
閉め切った校舎といえど女子生徒一人を残して窓を開けていくなんて無用心だ。後でリドルに言いつけよう。そう思ったとき、不安を煽るその違和感の正体にすぐに気が付いてしまった。ベッドの上で後ずさるようにシーツを握りしめる。怪しく輝く三日月に向かって「何しに来たの」と呼びかければ、それは形を崩して形成し直しながらひらひらと窓の縁に降り立った。陽気に鼻歌を歌いながら大きくなる影を、怯えるように見上げてごくりと唾を呑む。
「随分な有様だにゃあ。お嬢さん」
ニタニタ気味の悪い笑みを浮かべたチェーニャは私の頬に手を伸ばした。普段から気色の悪い男だと思っていたが、夜空の下の彼は一層そばにいたくない。彼の手が顔に触れ指が唇をなぞったとき、睨めつけるように「何しに来たの」と詰問した。
「恋人が酷い目に遭ったと聞いたんでな。見舞いくらい当然の権利だにゃあ」
『キミはまた無断で……リドルに叱られても知らないからね』
「アイツも俺に甘いんだ。なんにも怖かないさ」
『私はキミを甘やかした覚えないけれど』
「そーかいそーかい」
彼は私の上に跨がるように膝立ちになった。見下ろされる感覚が不快で彼を見上げ返せば、その両目と視線が交わった。先程までへらへら笑っていた彼とは別人のように無表情で見つめられ、脳が本能で「逃げろ」と信号を出したが身動きすらとれなかった。彼が手のひらで髪や首に触れるのを拒めなかった。お互い一歩も引かずに見つめ合っていれば彼が先に口を開いた。
「どこのどいつにやられた」
普段のふざけた語り口でない、瞬き一つしない彼に怖じ気づく。本当は泣き出してしまいそうなほど恐ろしいのをぐっと堪えて「い、言わない」と声を絞り出した。そう言うと彼は少しだけ口の端を上げて「なんで」と言った。キミがそんな顔してるからだろ。
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作者名:天 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur
作成日時:2024年2月15日 21時