トレイくんその１９！ ページ1
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「アンタ誰だにゃあ」
少しだけAより背の高いチェーニャは、Aの顔に黒く影を作った。気を遣ったトレイが「チェーニャだよ」と彼を紹介してくれた。
「よく話題に上がるけど、俺の友達」
『う、うん……』
チェーニャが近づく度にAはトレイの背中側へ回って逃げた。チェーニャは尚更それを面白がって追いかけた。
「おみゃー最近コソコソしとると思ったら女と遊んでたなんてにゃあ」
「チェーニャ、Aは育ちが良いから変なこと吹き込むなよ」
「へぇ、Aってぇの？」
名前を呼ばれてビクッと身体を揺らせば彼はニタニタと気味悪く笑った。
「Aはこのお屋敷の子なんだ。お前が俺を置いて帰ったときに知り合って」
「ずいぶん人見知りなんだにゃあ」
「そんなはずは……」
トレイは「A？」とこちらを心配そうに見下ろした。
「俺の友達だから、変だけど悪い奴じゃないよ」
トレイの友だちを否定したいワケじゃない。ただほんの少し気味が悪いのだ。初対面なのにじろじろ見てきて。トレイの時はこんな視線じゃなかった。トレイの目はキラキラしててほっぺもピンクで、純粋な興味の目つきだった。でも目の前にいる彼の目はとてもじゃないけど直視できない。
しかしこのまま黙っているわけにもいかず、Aは少しだけトレイの肩から顔を出して彼を見た。
『……ネコの獣人なの？』
それから何故かチェーニャに気に入られて、彼もトレイと共に遊びに来るようになった。ふしぎと当初感じていた不快さも薄れ、チェーニャとはどんどん距離が縮まった。それに対して特におかしいとは思わず、ただのいかれたやつなのだと受け容れてしまった。
三人で遊ぶようになって暫くして、チェーニャがある提案をした。
「Aってこの屋敷から出たことにゃーの？」
『そのくらい、あるよ』
言葉の歯切れが悪かったのは、実際の所あまり出ることがないからだ。何度か母と街へ下りたことはあるがそれも片手で数えられるくらいしか記憶がない。このだだっ広い箱庭で一人で過ごすことがほとんどなのだ。
「なあなあ、この屋敷抜け出してみない？」
「チェーニャ、無茶を言うな。バレたらAはどうする」
「ええ〜。だってこの屋敷で隠れながらできる遊びなんてもう全部やったがね」
正直出たいと思ったわけではなかった。ただ、チェーニャが言ったようにトレイもこの屋敷で遊ぶことに飽きていたらどうしようという不安だけがAの中で肥大していった。
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作者名：天 | 作者ホームページ：https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur
作成日時：2024年2月15日 21時
