烈火の如く ページ30
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『何よ、これ……』
まるで全身氷漬けにされたような気分だ。扉を開いた後、これ以上腕が動かない。頭のてっぺんから足の爪先まで石になったみたい。口角が引きつって瞬きも出来ない。
「……キミに嫌がらせをしていたのは、僕の同室だよ」
ハンガーにつられた制服の隙間から、クローゼットの壁面がのぞく。そこにはAの写真がびっしりと、ひしめき合うように貼り付けられていた。Aは衣類をかき分け、壁の全面を見た。破りかけのもの。針で刺されて穴だらけのもの。顔をペンで真っ黒に塗りつぶされているもの。どう考えたって全部盗撮だし、どう考えたって憎悪の具現物だ。
「それが、証拠だ」彼の言葉でハッと我に返ったAは、ガチガチになった身体を動かそうとした。Aは左手で口を塞いで、悲鳴を上げそうになったのを必死に堪えた。一歩、二歩と後退りをして、その惨状をまざまざと見た。
叩かれる扉、鍵の開かないドアノブ、時計の秒針、自分の心拍、聴覚から得る刺激全てがAの頭を混乱させた。息が上手く吸えず、くらくら眩暈が襲う。Aは自分の頬を叩いてみるが、現状は何も変わらなかった。
ユーゴのルームメイトは、校内でもとりわけ優秀な生徒であった。
成績はまずまず、校外活動も活発に行い、部活動はマジフト部。そのため、Aがオクタヴィネル寮へ来るまでは、校内マジフト大会オクタヴィネル寮の補欠選手だった。何でもそつなくこなすように見えて、付箋だらけでボロボロのスケジュール帳を持ち歩いたり、考査中は自習室に引きこもったりと努力家な性質がある。自分にも相手にも厳しい所はあまり人を寄せつけず、更に彼自身オクタヴィネル寮では珍しくヒト属であることから、寮内に友人と言えるような人はいない。彼らが同室になったのも、ユーゴがあまり他人に好き嫌いしないからであった。
つまり、完全に校内マジフト大会のことを根に持たれていたのだ。Aは大きく腑に落ちた。ユーゴがマジフト大会の後からよく気にかけてくれたことも、一度転寮を勧めてきたことも、ちゃんとここへ繋がっている。そう思えば、クローゼットの位置的にあの荒んだ学習机はユーゴのものではない。ということはユーゴは率先して勝手にルームメイトの椅子を後輩に貸したことになるのだが。
『……先輩、これからコイツどうします？』
「扉がいつまで持つか分からない。相手がどう仕掛けてくるか……」
音の鳴る方へ向けた瞳は、静かに赤く燃えていた。
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天(そら)(プロフ) - ｍさん» コメントありがとうございます。この作品は自分の夢と妄想でできた自分のための夢小説なので、自分以外の誰かから評価をいただけるのは本当に嬉しいです。自己満足の作品のため期待に添えるかわかりませんが、最後までどうぞ見届けてください。 (6月4日 22時) (
レス) id: 6c60cd58bf (このIDを非表示/違反報告)
ｍ(プロフ) - コメント失礼します。作品の中に惹き込まれ、いつの間にか一日中読んでいました。こんなにも綺麗で面白いお話に出会え、心から嬉しいなと思います。これからの展開や夢主の心境の変化等、ワクワクすることでいっぱいです。これからも心から応援しております。 (6月4日 15時) (レス) @page19 id: 87bc4141db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：天 | 作者ホームページ：https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur
作成日時：2023年5月14日 15時
