『PHYCHO-PASS』偽神を生んだ研究録 (ページ24)

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P22　8月13 ページ24

実のところ泡野は[生きて]いる。
　それはシビュラシステムとしてではなく、１人の人間としてだ。

　だから泡野はシビュラシステムという１つの個体でありながら人間として１つの個体でもある。

　泡野の神経ネットワークをスピーカーに繋いでやれば彼自身の意志で喋ることは可能であるし、意思疎通も可能だ。

　勿論人格や性格、記憶は一切失っていない。
　……いや、失っていないと言うと少々間違いが生じるだろうか？

　泡野がシビュラシステムとなって以来、あのふざけた思考が一変した部分がある。

　むやみやたらに人を殺したいという願望は無くなっているし、落ち着きも出ている。

　彼曰わく、

　『自分の存在が丸ごと生まれ変わったようだ。これまで生きてきた中で味わったことのない爽快感と高揚感がある。俺は……本当に生きているのか？』

　だそうだ。
　人間が肉の器を捨て生きるというのは精神的に何か大きな変化をもたらすのかもしれない。

　……いや、もたらすのだろう。

　人間は余分な情報を感じすぎている。
　味覚、聴覚、視覚、嗅覚、触覚の五感から得られる情報。
　そしてそれらを処理して考える思考。
　

　少なくとも今の泡野には五感というものは存在しない。

　舌が無い故に味わうことはできず、耳が無い故に聴くことはできず、目が無い故に視ることはできず、鼻が無い故に嗅ぐことはできず、体が無い故に触れることはできない。

　泡野が得る情報は全て電気信号化されたものだ。
　そこには不必要な情報は存在しない。
　あるのは此方から入力した信号と、対象となる人間の情報だけだ。

　だからこそ気分がいいのだろう。
　今まで脳を10割の情報で埋め尽くしていたのに、今では9割近くの脳の容量が空いたのだから。

　本来の人間の脳の本来の能力はスーパーコンピューターを軽く凌駕すると言われている。
　爽快感を得て当然だ。

　……まぁこれが今の泡野の状態だ。
　誰がこれを読むときが来るかは分からないが、この状況を文章だけで理解していただけたのなら拍手喝采だ。

　君も、シビュラシステムの１つになってみるかい？

　……この言葉の意味は次のページに記そう。