#183 機械的正常と人間的正常 ページ3
現場に到着した私達を待っていたのは、着ていた衣服をはだけさせられ、頭部をハンマーで何度も強打され無惨な姿に成り果てていた被害者の姿だった。
これが人通りの少ない路地裏や廃墟の中での殺人ならまだ理解が出来た。
けれども、被害者が殺されたのは人通りの多い繁華街。
それと、群衆が見ていてる目の前で彼女は殺された。
……シビュラに守られたこの国で、この殺人はあまりにも異常だ。
「被害者の名前は藤井博子……」
「繁華街のど真ん中とはな…この街は一体どうなっちまったんだ？」
智己さんの意見は至極真っ当で、この場に居る誰もが同じ事を考えているだろう。
「薬局襲撃犯と同じ犯人でしょうか？」
「可能性は高い……それにしても……これだけの人間がいたのに…カカシかこいつらは……！」
宜野座監視官も今回の事件には憤りを感じているようだ。
……無理もない。
何せ目の前で誰かが傷つけられているというのに、その場に居た誰もが被害者を助けようと行動した者が居なかったのだから。
被害者を助けようとしたら自分も傷つけられるかも知れない。だから助けない。
……そんな保身的な考えで助けなかったのならどれだけまともだったのだろう。
彼らはそんな考えで被害者を助けなかったのではない。
理解出来なかったのだ。
目の前で起きている出来事が。
「目撃者の証言は似たり寄ったりです…『何が起こっているのか理解出来なかった」…と。無理も無いと思います…目の前で人が殺されるなんて想像もつかないし、思いつきもしない…そういう出来事が起こりうる可能性なんて見当もつかないまま今日まで暮らしてきた人達ばかりなんです……」
そう、諦めのように常守監視官は呟くけど、私の意見は少し違う。
彼らだって人間だ。目の前で危険が迫れば逃げるし抵抗はする。けれどもそれは自分の意思では行わない。
彼らにとって何が危険で、何が最善かを判断するのは自分自身ではなくシビュラによるサイマティックスキャンだ。
データによると、事件発生時の色相が濁っていたのは危害を加えられている被害者のみ。
加害者の色相は正常値だったという。
そうなれば当然ドローンは加害者を捕縛しないし、被害者にメンタルケアを推奨する。
データ上は危険な犯罪者が居ないのだからこの場は安全だと誰しもが思う。
だからこそ、誰も助けなかった。
……これはシビュラがもたらした負の副産物だと私は思っている。
思考と倫理観を奪い、全てをシビュラに委ねるという。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 14人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
シロリス(プロフ) - ご忠告ありがとうございます。手違いで外し忘れておりましたので、ただいまタグを外させて頂きました。 (2022年7月29日 0時) (
レス) id: f7f4b00746 (このIDを非表示/違反報告)
優(プロフ) - 失礼します。この作品は二次創作でありながらオリ/ジナル作品になっています。ルール違反なので、オリジ/ナルのタグをきちんと外していただくようお願いします。作品を作られる際はルールをよく確認されて下さい (2022年7月29日 0時) (レス) id: 09c503bb24 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：シロリス | 作成日時：2022年7月29日 0時
