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360mのイントロが鳴り響いた。
紬からだ。
久々の紬からの電話に胸が踊った。
「もしもし」
「A、久しぶり」
「紬も久しぶり。何かあった？」
「Aに伝えたいことあって。誰よりも一番早く、Aに言いたかったんだよね」
早口で楽しそうな紬の声だった。
「私ね、結婚するんだ」
「……誰と？」
「湊斗。覚えてる？高校の同級生。サッカー部の、戸川くん」
久しぶりに聞いた名前だったけれど、思ったよりすぐに顔を思い浮かべられた。
そして同時に、佐倉くんの顔も思い浮かんだ。
佐倉くんの唯一の男友達が、戸川くんだった。
私はそこまで接点があったわけじゃなかったけど、紬と佐倉くんとの過去を教えてくれたこともあって、紬と佐倉くんの橋渡し役のような印象だった。
「戸川くんとなんだ。おめでとう！」
「ありがとう。それで、Aに頼みたいことがあって」
「何？」
「結婚式に来てほしいっていうのと、代表でスピーチやってほしい」
「私が!?」
「うん。湊斗と話し合った結果、Aに頼みたいなって」
「私にできるかな……」
「幹事とスピーチ、お願いしたい。Aの時は、何でもやるから」
親友にそこまで頼まれては、断れなかった。
将来協力してくれるんだったら、今紬の頼みを聞き入れるべきだろう。
問題は、私が紬の助けを必要とする時が来るかどうかだけど。
「私でよければやるよ」
「よかったー！ありがとう!!また日程とか詳細はLINEで送るから、誰か結婚式に呼んでもいいなって思う人いたら、勝手に連絡してくれていいよ」
「分かった。楽しみにしてるね」
「ありがとう。じゃあね」
紬、結婚するんだ。
二十六だったら結婚にはちょっと早いかもだけど、別に驚くほどの年齢ではなかった。
最近会ってないけど、紬も戸川くんも素敵な人になっているんだろうな。
紬は昔から言わずもがなかわいいかったし、大人になってさらに美しさが増しているだろう。
でも電話番号の声を聞く限り、無邪気な一面は今も昔も変わっていない気がした。
戸川くんは、紬のそういうところが好きなんだと思った。
戸川くんは童顔だけど整った顔立ちをしていたし、常に佐倉くんの隣にいたから分かりにくかっただけで、スタイルもよくて身長も高かった。
成績もよくてサッカーも上手かったし、主成分優しさの人だった。
でもあまりにも完璧すぎた佐倉くんと一緒にいすぎたせいか、自分にあんまり自信がないところもあった。
紬に色々とリードされているけれど満更でもなさそうな戸川くんの画が、簡単に想像できた。
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