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もう気づいたと思いますけど、Aさんだったんですよ。
何か緊迫した様子だったんで声はかけられなかったんですけど、通りの向こうから見ていました。
佐倉くんがいなくなった後、どうしたらいいか分からなくなってそのまま帰りました。
その次の週、今度は佐倉くんとAさんが二人で並んで出てくるところに遭遇しました。
先週とは打って変わって穏やかな雰囲気でした。
それは喜ばしいことだったはずなのに、それからずっと胸の奥がザワザワしています。
久しぶりに会えたんだったら話すことなんて普通だし別にいいと思ってはいたんですけど、Aさんが俺の近くから離れていくかもしれないって不安でした。
でも、人の仲なんて変えてほしいって言ったって簡単に変えられるものじゃないことも、分かってました。
佐倉くんの耳が聞こえなくなったこと以外、全部初めから知っていました。
結局Aさんには何も言わないままでしたが。
——言えばよかったんですかね？
たぶん、それが本来の正解だったんだと思います。
それは知ってました。
ただ、俺は自分の気持ちを優先したってだけです。
Aさんに少しでも長くそばにいてほしかったので。
佐倉くんとのことを俺が聞いてしまったらAさんはどちらかを選ばないといけなくなる。
そして佐倉くんを選ぶんだろうなということは簡単に想像できたから、言えなかったんです。
完全に俺の勝手な想像と思い込みですけどね。
ただ、あながち間違ってないんじゃないかという謎の確信はありました。
——合ってます？
田畑くんにやっぱり嘘はつけなくて、でもうなずくこともできなくて、うつむいた。
肯定も否定もしないっていうことは……そういうことですよね。
それに関しては想像できていたので、今更どうってことはないです。
別にAさんを悲しませたいとかそういう意図はなかったんですけど、結果そうなっていたらすみません。
今このタイミングでこんな話をしても、ただの言い訳にしか聞こえないですよね。
信じてもらえないかもしれないですけど、本当の話です。
話は変わりますけど、俺らってお互い自然な流れで今に至る感じですよね。
今更感ありますけど、付き合ってるってことでいいですか？
「うん」とはっきりうなずいた。
「付き合ってるよ」
話まとめるの下手なので長くなりましたけど、最後に一ついいですか？
俺はAさんのこと、大好きです。
例えAさんが佐倉くんのことを選んだとしても。
迷惑なのは承知ですし嫌ならやめますけど、もしよければAさんのこと、好きなままでいさせてくれませんか？
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