137 ページ37
この日以降、佐倉くんの表情が変わった。
時々翳りのある顔を見せる時はあったけれど、それ以外の時は晴れやかな笑顔をしていることが多くなった。
しかもその様子が、田畑くんの変化と正確にリンクしていた。
「もしかして、佐倉くんと会ってる？」
その可能性について、本人に聞いてみた。
「はい、たまに」
「やっぱりそうだったんだ」
「あっ、何かごめんなさい」
田畑くんが、エプロンを畳んでいた手を止めた。
「ううん、そういうことじゃなくて。それは別に全然いいんだけど、佐倉くんと田畑くん似てるなって最近さらに思って」
「そうですか？」
「雰囲気とか初めから似てるなって思ってたんだけど、二人とも最近変わってきてて、それが全くおんなじなんだよね」
「……俺は分からないです」
当事者からしたら、まるでピンと来ていない様子だった。
「第三者からじゃないと分からないものなのかな」
「そうじゃないですかね。あと、Aさんも佐倉くんと会っているから一緒ですよね」
「……どこ情報？」
「佐倉くんから聞きました。——すみません」
田畑くんが「やってしまった」というような表情に変わった。
「怒らない？」
「どうしてですか？」
「許可も得ずに元カレと会ってるんだよ？黙ってるのは申し訳ないなって思ってたけど、いつ言えばいいか分からないままになってて……」
「俺、別にそういうことあんまり気にしないんで」
いつも通り感情の読み取れない顔に少しだけ、温かみがあった。
「Aさん」
すぐそこにいるのに、改めて名前を呼ばれて姿勢を正した。
「こうなること分かってたんですよ、実は」
田畑くんは私に背を向けて、そのままさらっと告げた。
「この際、全部言います」
何かを決意したかのような、静かなトーンだった。
ある日のバイト帰り、建物から出てくる佐倉くんに似た人を見かけました。
帰り道が一緒だったんで後をつける形になったんですけど、間違いなく佐倉くんでした。
その時は何も思わなかったんですけど、それから毎週一回、同じ場所で佐倉くんに会うようになったんです。
会うと言っても、道の向かい側なので一階信号は渡らないと、佐倉くんと同じ道には行けないんですけどね。
向こうは俺のことなんて覚えていないと思って、何をしていたのかは気になっても聞けなかったです。
何回目かに会った時、普段は一人なはずの佐倉くんの後ろから駆け寄ってくる人影が見えました。
それって……。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 580人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
