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時計は二時五十五分を指していた。
レジでお客さんを捌きながら、横目で時計を確認した。
よりによって今日に限って、昼過ぎなのにやたらとお客さんが多かった。
週末だからだろうか。
バイトの子もあんまり来ていないから、レジを代わってもらおうにも人がいなかった。
とりあえず、今並んでいる人たちのお会計が終わったら切り上げよう。
三時前には帰ります、と事前に店長には伝えたから、これさえ終われば後は着替えて荷物をまとめて出ていくだけだった。
爆速でCDをレジに通してお金を受け取って、おつりとレシートと商品を渡した。
働き始めた時よりははるかによくなった手つきでレジ打ちをしていると、案外お客さんは早く捌けた。
バックヤードで会った店長に「お疲れ様です」とだけ言って、普段着に着替えてから外へ通じる扉を開けた。
鉄板みたいに熱いアスファルトの上を、溶けないように原型を保って走り抜けた。
待ち合わせには前もって着ておくタイプの二人だから、絶対もう着いているだろう。
赤信号を前に、何もできないまま大人しく立っていた。
そうだ、LINE。
田畑くんに「今向かってるから、先入ってて」と送った。
次の信号待ちでLINEを確認したけど、返信どころか既読もついていなかった。
いつもならすぐに既読がついて、たまにスタンプが返ってくるものなのに。
二人は一体、何をしているんだろうか？
そもそも二人は、かれこれ九年は会っていない。
しかも田畑くんは、佐倉くんの今のことを何一つ知らない。
手話だって、できない。
細かいことは抜きにしてよく考えたら、今カレと元カレが彼女の仲介で会うことになるのだろうか。
それもそれで、ヤバいような気もした。
ただ、佐倉くんと田畑くんの二人だけというのもどうなんだろう、という気持ちになった。
何かしているとすれば、今カノと元カノの悪口でも言って盛り上がっているのだろうか。
そうだったらうれしいわけじゃないけど、気まずくなっているよりはまだ、その方がよかった。
ドアを開けて入ると、二人の席はすぐに見つかった。
ただでもさえ女子率が高めのカフェにいる男子は目立つのに、そのうえ顔面偏差値まで高いものだから、二人の座っているところだけが異様なオーラを放っていた。
田畑くんが私に気づいて振り返った。
その向かいに佐倉くんが座っているのが見えた。
「遅くなってごめん」
「だいぶ待ちましたよ」
「田畑くんが来るの早かっただけじゃない？」
「俺も早めには行きましたけど、それより先に佐倉くん来てましたよ」
『待たせてごめん』
何となく話の流れをつかんだっぽい佐倉くんが、笑顔で首を振った。
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