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いつものように、ゴミ袋を抱えてタワレコの外に出た。
夕暮れ時だというのに、東京の中心は真昼の太陽の気配が充満していた。
梅雨が明けた途端一気に暑くなったから、外に出るのが億劫なことに変わりはなかった。
それを知ってか、相変わらず田畑くんは私にゴミ捨てを押し付けてきた。
でも最近は、私の方から進んでゴミをまとめてこまめに捨てにいっていた。
実は初めて佐倉くんがタワレコに来て以来、その後も何回かここに立ち寄ってくれていた。
店内には入らずに、常に入口のドアの少し横で出てくる私を待ってくれていた。
仕事終わりは田畑くんと一緒なのを察知してか、それまでには必ず帰っていくけれど。
だから私が仕事中に佐倉くんと会えるのは、ゴミ捨てをしに外へ出た時だけだった。
たまに他の従業員の人が脇を通っていくこともあるけれど、ゴミ捨てだけだと思われているのか、特に咎められもしなかった。
私が仕事中なのはもちろん佐倉くんも知っての上だから、ほんの少しだけ会話するだけになってしまう。
でもそれは、私たちにとって貴重で大切なひと時だった。
佐倉くんと会って他愛もない話をしていると、一瞬だけ仕事のことも忘れられて、純粋に目の前の佐倉くんだけを見ていられた。
そしてこの後も頑張ろう、という気持ちにさせてくれた。
「最近Aさん、ゴミ捨て行ってくれますよね。暑いんで、助かります」
今日ゴミ捨てに行く前、ふと田畑くんからそんなことを言われた。
「田畑くんと無意味な言い争いしてるほど、暇じゃないから」
「何かあるんですか？」
「別に何も」
これだから、勘のいい人は困る。
知ってほしくないことにまで、考えが及んでいる。
私はどこまで行っても鈍感だから、逆にその感覚の鋭さが羨ましいけど。
裏口のドアを開けてゴミ捨て場へ向かう途中、いつもの場所でスマホを見ている佐倉くんが目に入った。
私が駆け寄ってくる音なんて聞こえなかったはずなのに、まるで待ち構えていたかのようなタイミングで佐倉くんが顔を上げた。
『久しぶり』
『昨日も会ったじゃん』
『うん。最近暑くない？』
『梅雨明けから一気に暑くなるって天気予報で言ってた』
『これ以上暑くなったら溶けそう』
『アイスクリームだな』
『スライムでしょ』
お互い同じ場面を思い出しているのが分かって、小声で笑った。
『覚えてるんだ』
『当たり前だろ。Aとの思い出なんて、忘れないよ』
佐倉くんがそう、微笑んだ。
『じゃあ、そろそろ戻るね』
『うん。仕事終わったら、カフェ来て』
『分かった』
太陽という名のスポットライトを浴びた佐倉くんは、この世の誰よりも輝いて見えた。
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