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どうするべきなのか？
佐倉くんから「田畑くんに会いたい」と頼まれたものの、それをまだ本人に伝えることはできていなかった。
前のかるた会の帰り、佐倉くんとぶつかった時のことが蘇った。
あの時田畑くんは、佐倉くんをしっかりと見ていた。
田畑くんの方は、佐倉くんを認識していたように思った。
耳が聞こえなくなったことだって、見た目上は分からない。
それを除けば表面的に大きく変わった部分はないし、服装が違うことぐらい何でもないだろう。
佐倉くんを一目見た田畑くんは、いつもとは一瞬だけ違った雰囲気を醸し出していた。
時間が凍って動かなくなってしまったみたいだった。
佐倉くんとはどうせ手話教室で会うんだから、その場で追いかけないといけなかったわけじゃなかった。
それなのに田畑くんを置いて自然と体が動いてしまったのは、そこに理由があったのかもしれない。
普段から何を考えているか分からない田畑くんが佐倉くんに対してどんな感情を抱いているのかは、推し測りようもなかった。
でも、面と向かって問う勇気もなかった。
佐倉くんに対してネガティブな感情があるのなら、田畑くんにその話題を振ることは褒められた行為ではない。
どんな反応をするのかは、実際行動に移してみるまで分からない。
ある意味、賭けだ。
佐倉くんは田畑くんのことはそこまで深く知らない。
でも田畑くんは、佐倉くんのことをよく知っている。
それを教えたのは、私ではなかった。
田畑くんの周りにいて且つ佐倉くんとつながりのある人——主に紬だろう。
かるた会の帰り道に「Aさんって彼氏いるんですね」と言われて心臓が止まりそうだったことが、脳裏に鮮烈な印象を留めていた。
不器用な私は上手く嘘をついたり話題を変えたりして切り抜ける術もなく、田畑くんの誘導されるがままに色々話す羽目になってしまった。
それからはかるた会に来る度に田畑くんに「次のデート、いつ行くんですか？」などといじられていた。
「彼氏、Aさんにはもったいないぐらいイケメンですね」と図星を突いてきたり、「今日は彼氏と何したんですか？」と真顔で聞いてきたり。
やたらと佐倉くんとのことを聞きたがっていた記憶がある。
今から考えたら、田畑くんがなぜそんなに佐倉くんのことを知りたがっていたのか疑問だ。
ただの好奇心なのか、何か別の目的があったのか。
無意味な行動をする子には見えなかったから、後者な気はした。
考えていても目の前の問題が解決しないばかりか、新しい疑問まで出てくる始末だった。
街灯に照らされた自分の影に、飲み込まれそうだった。
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