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そのまま部屋に姿を消した佐倉くんに追いついて、肩を叩いた。
佐倉くんは驚いたように振り返って、私だと分かったらふっと表情を緩めた。
慌てて入ってきた私の様子に、『どうしたの』と佐倉くんが聞いた。
『ううん、何でもない。さっきはごめんね、ぶつかって』
『それはいいよ。俺もちゃんと前見てなかったから。それよりもさっきの子、置いてきて大丈夫？』
『あっ、うん……。先帰っててって伝えたから』
『あの子、誰？』
『佐倉くん、覚えてる？田畑利空くんって』
知らない、という風に佐倉くんが首を傾げた。
『佐倉くんがかるた会に来た時、数回会ったことあると思う』
『俺、かるたやったことないよ』
『それはそうだけど、帰りが特に遅くなった時、わざわざ部活帰りに何回か寄ってくれたよね』
『そんなこともあったかも』
思い出したのか、佐倉くんが笑ってうなずいた。
一試合目で田畑くんに僅差で負けたのが悔しくて、巻きで無理やり二試合目をやった時のことを思い出した。
今からしてみれば、小学生相手に張り合う高校生なんて大人げなかったなとは思う。
でもかるたに年齢なんて関係ないし、競技歴は同じだからまあいいんじゃないか……？
『あの時にAの隣にいた小学生ぐらいの子が、田畑くん？』
『そうそう。成長したから、パッと見ても分かんないよね』
『全然違っててびっくりした』
『変わったよね』
田畑くんに関しては、見た目だけでなく中身もだいぶ変わっていた。
あの頃の田畑くんは、今みたいなどこか冷めた雰囲気を持つ子ではなかったように思う。
出会って間もない頃は緊張もあっただろうが、基本明るくて活発などこにでもいそうな小学生だった。
いつからだろうか。
私が大学生になって一人暮らしをするようになってからは会う頻度がぐんと減ったから、その間なのかもしれない。
とにかく、いつの間にかイメージが変わっていた。
バイトで毎日顔を合わせるようになってから、やっとそれを実感した。
昔だってクールな印象はあったとはいえ、こんなに俯瞰した物の見方をしてはいなかったし、全てを諦めた表情を見せることはなかった。
九年間の間に佐倉くんが色んな意味で変わってしまったように、田畑くんも何かが変わっていた。
それが何なのかは、まだつかめなかった。
ウナギを捕まえようとしてもスルッと手の間をすり抜けてしまって捕まえられなかったごんの気持ちが、よく分かった。
佐倉くんがさらに何かを聞こうとすると、『今日は早いですね』と言いながら先生が入ってきた。
続きは後で、とひっそり目配せし合った。
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