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あの頃は、恋は束の間に咲いた一輪の花のように儚いものだと思い込んでいた。
でも、全ての恋が一瞬で自然消滅するわけじゃない。
そのまま関係が続くこともあるし、いなくなった相手が再び自分の前に姿を現すこともある。
結論を言えば、恋は思ったより複雑だ。
ドラマや小説みたいに紆余曲折あっても最後はハッピーエンド、みたいに単純にはいかない。
表向きがそうなだけで、実際はバッドエンドの方が多いのかもしれない。
「現実は小説よりも奇なり」という言葉は、本当に核心を突いていると思った。
良くも悪くも現実は色んなことが起こるし、そのせいで想像もしていなかった将来が待っている可能性も十分あり得る。
どれだけ綿密にライフプランを立てても、その通りにいかないことの方が圧倒的に多い。
恋は人を変えるし、人生だって変える。
そう考えたら私は、恋の力の偉大さを体験した当事者になる。
私の場合はいい方向に変われたからいいけど、世の中には一定数、恋に人生を狂わされて取り返しのつかないことになってしまっている人もいるのが事実だ。
ブラックホールのような恋の底知れぬ力は、まだ体験したことはない。
でも、飲み込まれて光が完全に見えなくなってからでないと、そういう世界の存在には思い当たれない。
脳内に二人の男性が交互に現れてくる時点で、私は既に恋の魔物の口のそばにいるような気もしてきた。
でも、恋は止められない。
自分の気持ちを誤魔化し続けることなんて、不器用な私には絶対できない。
でも、上手に想いを伝えることは、もっとできない。
何もできない自分が情けないけど、できないものはできない。
どうすればいいのかも、分からない。
自分の真横のレジに立っている人を見ながら、そんなことをダラダラと考えた。
二つのレジが空いていたら、お客さんは全員私の真横のレジに並ぶ。
私だって間違いなく、そうする。
だって単純に、同じ接客をされるならイケメンの方がいいに決まっている。
そのおかげで同じ時間にシフトが入っていたら、仕事が大幅に減るから楽だ。
たくさんの人が並んでくれるのはちょっぴり羨ましかったけど、バイトの時間以外にも彼は私の横にいてくれた。
「Aさん」
隣から飛んできた声に、慌てて振り向いた。
「今日もいつもの時間に待っててください」
「分かった」と私は指先で丸を作った。
「田畑ー！」
「店長に呼ばれてるよ」
「……じゃ、後で」
ダルそうに歩いて行く後ろ姿も、好きだった。
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