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その日の部活の帰り道。
いつもよりも少し早い時間に紬と道を歩いていると、少し後ろにいる佐倉くんを見つけた。
私が後ろを振り向いたのと佐倉くんがスマホから顔を上げたタイミングが被って、お互いしっかり目が合った。
佐倉くんの何か言いたげな表情を察してか、「先帰るね」と紬は一人走っていってしまった。
「あっ、紬……」
運動神経抜群の紬は、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
運動神経なんて一ミリも持ち合わせていない私は紬を追いかけるのを諦めて、小走りで駆け寄ってくる佐倉くんを待った。
「青羽、先帰ったのか」
「うん。さっきまでいたけど、佐倉くん見つけたらすぐに走っていっちゃった」
「そうか。これ」
カバンの中から取り出したものを、いきなり渡された。
「えっ、何？」
「妹の友チョコの余り。俺も作るの手伝ったから、間接的には関わってるけど」
「で、私にくれたの？」
「うん。最初の方で分量ミスったらしくて多くできたけど、消費し切れないなって思って。青羽の分もあるから、いたらよかったのに」
「私が預かろうか？」
「じゃあ、頼む」
「OK。ラッピングもちゃんとしてくれてるんだ」
「ああ、それ妹が使ってたやつの残りだから、デザインはあれだけど」
「全然いいよ。ちょうどお腹空いてたし、食べていい？」
「うん」
そっとラッピングをほどいて、中のチョコに手を伸ばした。
きれいなハート形をしたそれを、口に運んだ。
ミルクチョコレートのちょうどいい甘さとトッピングのプチプチした触感が合わさって、今まで食べたどんなチョコよりもおいしく感じられた。
「おいしい！」
「よかった。A、ほんとにおいしそうに食べるよな」
「おいしいもの、大好きだから」
私がひたすら食べているのを、佐倉くんが真横で見つめている。
モグモグしている私を見ていて何が面白いのか分からないけれど、佐倉くんは終始笑顔だった。
「普通バレンタインって、女子から男子にチョコあげるものだよね。よく考えたら逆じゃない？」
「そもそも俺らの組み合わせが普通じゃないんだから、今更気にすることでもないだろ」
「佐倉くんもそんなこと考えてたの？」
「周りからすごい言われるからってだけ」
「私じゃなくて紬でしょ、って？」
「知ってるのか」
「あっ、うん」
「紬と何があったの？」
「別に青羽のことが嫌いなわけじゃない。青羽にもAにも伝えたいことあるんだけど、もう少しだけ待ってて」
「分かった。待つよ」
耳元で「ありがとう」と聞こえた。
静かに降り始めた雪がのったチョコを、そのまま食べた。
ちょっぴり苦い、ビターチョコだった。
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