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「考える」
紬にはそう言ったものの、いざ考えてみても、そう簡単に結論が出せるものではなかった。
まあそんなことは、分かり切っていたけど。
何はともあれ、フラれた時のリスクが大きすぎる。
紬とは状況が違うとはいえ、今まで通りの関係性を保つことができないのは一目瞭然だ。
でも、私の佐倉くんに対する気持ちをそのままにしておくこともできないような気がした。
いつかの放課後黒板に書かれてあった「忍ぶれど」の歌みたいに、隠しきれずに現れてしまうかもしれない。
佐倉くんのことをもっと知りたいという気持ちも、もちろんある。
本当に本当に、どうしたらいいんだろう。
誰にも相談できないまま、私は風船みたいにどんどん膨らんでいく気持ちを抑えながら、佐倉くんと接し続けた。
そのうちに気づけば、学年末テストが近づいてきた。
色々思うことがあって、テスト勉強にもなかなか身が入らなかった。
佐倉くんに聞きたいことはあったけれど、どうしても本人に聞く勇気はなかった。
そこで私は、前と同じ方法をとった。
「戸川くん」
「うん？想？彼女いないよ、今は」
私は意表を突かれて、目を点にした。
「Aって、彼氏いるの？」
プリントを解く手を止めて、戸川くんが聞いた。
「えっ？」
私は驚いて、戸川くんの目を見た。
「って聞かれた。想に、つい最近」
「えっ、なんて言ったの？」
「うん？知らない、って。自分で確認すれば、って」
再びプリントに目を落としながら、戸川くんが言った。
「いないよ。彼氏いない。一人もいない。ぜんっぜんいない」
戸川くんが言い終わるかどうかのタイミングで、私は食い気味に答えた。
「うん。それ想に言ってやって」
これって……そういうこと？
自分の席に戻ると、廊下の方から女子たちの会話が聞こえてきた。
「これ、どうしよう」
「今渡しに行きなよ。ほら、そこにいるじゃん」
「えっ、でも……」
「頑張って作ってきたんでしょ？チョコ」
「受け取ってもらえるかな」
「せっかくのバレンタインなんだし、もったいないよ」
今日って、バレンタインだったんだ。
友チョコというものの存在は知っていたけれど、実際に交換する相手がいなかったから、チョコなんて作ったこともない。
そもそも料理自体苦手で、避けてきた。
窓からこっそり、廊下をのぞいた。
女の子が男の子に、何かを渡していた。
「おいしそう。ありがとう」という返事も聞こえた。
相手の男の子が佐倉くんではないことを、無意識に確認してしまった。
今まで意識の片隅にも置いたことのない「バレンタイン」の六文字が、私の脳をぐるぐる駆け巡っていた。
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