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「A、佐倉くんと付き合わないの？」
あまりにも唐突すぎる質問に、飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「えっ？」
「ずっと一緒にいるでしょ？告白とかさ、しないの？」
「紬がそんなこと言っていいの？」
「どういうこと？」
「だって、紬さ、佐倉くんと……」
「もしかして、知ってる？」
「あっ、ごめん……」
「全然。私と佐倉くんの中学校で知らない人はいなかったぐらい有名なことだったし。A、そんなこと気にしてたの？」
「それもあるけど、私でいいのかなって思う」
「何が？」
「佐倉くんの隣にいるべきなのは、私じゃない気がして。紬の方が断然似合うなって」
「私はフラれたんだよ。佐倉くんは私のこと、もう好きじゃないんだよ」
紬がすっと目を逸らして、つぶやくように言った。
「何で別れたのか、教えてもらえなかったの？」
戸川くんから聞いていたけれど、もう一度聞いてみた。
「うん。LINEで一言『別れたい』って。ただ、それだけ。佐倉くんがそんなことするなんて想定外だったけど、受験直前だったから、お互い会って話す時間も取れなかった」
紬が遠い目で、続けた。
「真相を確かめたくて全力で勉強して佐倉くんと一緒の高校に来たのはいいんだけど、いざ同じクラスになっても何だか気まずくて。佐倉くんにはパッと見変わったところもないし、わざわざ掘り返すのも何だかなって思って、結局そのままなんだよね」
紬は、さらに悲しそうな顔をした。
「過去に囚われてるのは私だけなんだと思う。Aが佐倉くんと付き合うことで、私の佐倉くんに対する気持ちに終止符が打てるのかなって思って。勝手だよね、ごめんね」
「ううん。私の勇気がないだけ。いざとなると緊張しちゃう」
「そうだよね。分かる。分かってるのに、簡単に言っちゃった……」
ということは、紬の方から告白したと捉えていいのかな。
想像してみると、いとも簡単にその様子が思い浮かんだ。
佐倉くんの方から告白している絵は、想像できなかった。
明るくて元気な紬と、冷静でクールな佐倉くん。
真反対の二人だけど、お互い片方にしか持っていない部分があって、それでうまく行っていたんだと思う。
「私から言い出しておいてあれだけど、告白するもしないも、Aの自由にしていいと思う。告白して付き合えたからって、必ずしも幸せになれるとは限らないから」
経験者の言葉は、重みが違う。
「考える」
「それがいいよ。考えて考えて出した結論が、Aなりの正解だと思う」
「うん。ありがとう」
雪が一層煌めきを増して、寒空を漂っていた。
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