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二度の定期考査を経て、冬休みが近づいてきた。
学校へ行く時にも上着やマフラー、カイロが必需品になりつつあった。
街頭に照らされたすっかり葉の落ちた街路樹を眺めながら、部活終わりの夜道を行った。
紬は用事があって部活に来ていなかったから、今日の帰りは一人だ。
駅のホームに入ると、イヤホンをつけた同じ高校の制服を来た人がいた。
「佐倉くん」
私が声をかけると、佐倉くんはイヤホンを外して微笑んだ。
そのまま二人で電車に乗って、最寄り駅で降車した。
駅の階段を降りて外に出ると、凍てつくような風が吹きつけてきた。
風と一緒に上着についたのものを見て、私は驚いた。
「雪？」
「だな」
「もう降るの？」
「まだ十一月だよ？」
「今年は早いな」
上着を着ていない佐倉くんはすごく寒そうに見えたけれど、ブレザーの中に着込んでいるから寒くはないらしかった。
私はマフラーをぐるぐる巻きにして、上着のボタンを一番上まで閉めた。
灰色の空に舞う粉雪を見て、私はあることを思い出した。
「シーっ」と、私は自分の口に指を当てた。
「うん？」
「静かだね。雪降ると、静かだね」
「うん」
「ねっ！静かだよね！」
「うるさい」
「うん？」
「Aの声。うるさい」
「佐倉くん、静かだね〜！」
私はちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべながら、さっきよりも大きな声で繰り返した。
佐倉くんが、「うるさい」と苦笑交じりに返した。
佐倉くんも「シーっ」とさっき私がやった通りのことをしたけれど、やっぱり静かにはなれなくて、二人で笑い続けた。
あの時の私と全く同じ反応をする佐倉くんを見ていると、自分が紬であるかのような錯覚に陥った。
もしかしたら紬と佐倉くんも、今の私たちみたいなことをしていたのかもしれない。
でも、それとこれとは別物だと思う。
今、私はすごく幸せだ。
想いなんて伝えられないけれど、幸せであることに変わりはない。
雪が、星にようにキラキラと夜の空に舞った。
広げた手のひらの上にのった雪は、一瞬で消えてしまった。
ひんやりとした後味だけを、心に残して。
カイロをを忘れてきた私の手は、どんどん冷えてきた。
「手、冷たくなってきた」
佐倉くんは無言で私の手をつかんで、そのままどこかへ突っ込んだ。
一気にあたたかさが伝わってきて、痺れたような感覚になった。
「あったかい」
「今日だけ、なぜかカイロ持ってたから」
佐倉くんのズボンのポケットに入っていたカイロが、私の心までもじんわり溶かしていった。
雪の結晶の精巧で繊細な形が、はっきりと見えたような気がした。
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