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この世界には、色がない。
佐倉くんがいなくなってから、目に見えるものすべてがモノクロに見えてしまうようになった。
何をしていても心から楽しむことができないし、そうしようとも思わない。
それはただ、佐倉くんがいなくなったからだけじゃない。
あの日家に帰って、佐倉くんのお母さんから返してもらったSnow Labo.S2の中身を見た。
ちゃんどCDとDVDの枚数が揃っていることを確認してから収納しようとしたら、一枚の紙切れが目に入った。
シリアルコードの紙じゃないから元から入っていたものでもないし、そんなものを一緒に入れて佐倉くんに貸した覚えはなかった。
紙切れだと思ったそれを手に取ってみると、私が佐倉くんの誕生日にあげたパンダの柄がついたメモ帳の一枚だった。
そこに書かれていた佐倉くんからの言葉を読んだ。
「好きな人がいる。別れたい」
その文字を見せられて終わった。
あの声で、聞くことすらできなかった。
好きな人がいたなんて、予想外でショックだった。
佐倉くんがいなくなってからそれまで下火になっていた嫌がらせも増えたけれど、ゴミ箱にある自分の靴を見ても、何も感じられなかったぐらいに。
でもある程度時間が経った頃には、佐倉くんが少しの間でも私と一緒にいてくれたということに感謝できるようなった。
あんなにカッコよくて優しい佐倉くんなら、好きな人ができたらきっとその人と上手くいくだろう。
私に入り込める隙なんてないし、おこがましくてそんなことはできない。
悲しかったことは悲しかったけれど、強引にポジティブに開き直ったこともあって高校には何とか通い続けられた。
佐倉くんは今の高校を辞めて転校しただけかもしれないし、大学に行きたいと言っていたからそのための勉強をしているのかもしれないとも考えられた。
もし佐倉くんが大学に行っていたら、私だって同じく大学に行ったという事実を携えて会いたい。
佐倉くんの志望校が変わっていないと仮定すれば、佐倉くんは大学生になったら東京へ行く予定になっていた。
あの頃は遠距離になることも、気にしていなかったのに。
私は、家から通える県内の大学を第一志望にしていた。
できることならもちろん佐倉くんと同じところに進学したかったけれど、偏差値的にそれは絶対に不可能なことを悟って諦めた。
でも部活を引退した後は、今まで約十七年間生きてきた全ての勉強時間よりも多いぐらい勉強した。
偏差値も志望校判定も最後まで一向に上がらなかったけれど、なぜか合格通知は舞い降りてきた。
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