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相変わらず学校には姿を見せないけれど、佐倉くんが元気だというお母さんの言葉だけを頼りに何とか学校に通っていた。
授業も部活も何もかもに身が入らない代わりに、私の脳内では架空の佐倉くんが常に居座っていた。
しばらく経ったある日の、放課後。
日直だった私が一人残って黒板を消していると、先生が教室にやってきた。
そして、佐倉くんの机の中の教科書やプリントを全部一まとめにしていた。
「手伝います」
自然と体が動いた。
「じゃあ、そこの手紙持ってくれたらうれしい」
「はい。これ、佐倉くんのですよね？」
「そうだよ」
「この荷物、どうするんですか？」
「今、お母様が学校にいらしていて、荷物の回収を頼まれたから持って帰っていただくつもりだよ」
「持って帰るって……。次、学校来る時にもう一回持ってこないといけないんじゃないですか？」
「その必要はない」
「どうしてですか？」
「これは誰にも言わないでおいてもらいたい」と釘を刺された後、先生が声のトーンを落とした。
「佐倉、高校辞めるらしい」
「えっ……」
心の準備も何もできていなかったところに突然訳の分からない情報が舞い込んできて、頭がクラクラした。
家でリラックスしている時に、宿題の存在を告げられた時の千倍はダメージが大きかった。
「本当ですか……？」
「ああ。さっきお母様がそのことを伝えに来られた。書類も全部持ってきていたから、佐倉は二度とここには来ることはないだろうな」
「二度と、来ない……」
「その後のことは分からないからあれだけどな」
「手紙を届けに行った日も、会えなかったんですよね。今からでも何とかならないんですか？」
「佐倉には佐倉の事情があるだろうし、俺に言われてもなあ……」
「そうですよね、すみません……」
何も言えないまま、職員室の手前までプリント類を運んだ。
「ありがとう」という先生の言葉を背に、玄関に向かった。
職員室から少し離れた廊下で、佐倉くんのお母さんを見つけた。
挨拶を交わした時のお母さんの表情は、以前よりも少しやつれているようにも思えた。
「色々迷惑かけてごめんね」
「いいえ。勝手に会いたいだなんて言ってすみません」
「会いたいよね。今は無理でも、いつか……」
「はい」
「あとこれ、想が返してほしいって言ってて」
佐倉くんに貸したままにしていたSnow Manの2ndアルバム、Snow Labo.S2の初回盤Bだった。
「ありがとうございます」
お互いに別れの挨拶を交わして、校門を出た。
少しでも佐倉くんを感じたくて、アルバムの表面をそっと撫でた。
私の未来には、ブラックホールが大口を開けて待っていた。
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