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佐倉くんは、その次の日も学校に来なかった。
その次の日も、その次の日も。
何か知っていることはないかと紬や戸川くんにも聞いたけれど、二人とも「何も聞いていない」の一点張りだった。
隠しているわけじゃなくて、本当に知らないんだと思う。
二人ともクラスは違っても、佐倉くんのことを心配しているみたいだった。
佐倉くんがどうしているか不安だったから、プリントや手紙を届けるという口実で学校帰りに佐倉くんの家へと向かった。
方向音痴なりに紬に案内してもらったルートを何とか思い出して、佐倉くんの家に到着した。
きれいな花壇のある大きな家だから、分かりやすかったのが救いだった。
いざドアの前に立つとやっぱり緊張したけれど、意を決してインターホンを押した。
「はーい」と声がして、すぐにドアが開いた。
「お久しぶりです」
「ああ、想と夏祭り行った……」
「はい。いきなり押しかけてすみません」
「用件は……？」
「あの、これ、佐倉くんに渡してもらいたくて」
カバンの中からプリントの束を出して、お母さんに渡した。
「ありがとう」
「いえいえ。佐倉くん、夏休みが終わってからずっと学校に来ていないんですけど、大丈夫ですか？元気だったら会いたいなって……」
「想は会えないけど、大丈夫。元気」
お母さんは遠くを見つめて何かを決意したような、そんな表情だった。
「元気なら、よかったです。ありがとうございます」
「プリントとか大変だし届けてくれなくていいよ。またまとめてもらってくるから。あと紬ちゃんと湊斗くんにも、想は元気だから心配しないでって伝えてくれたらうれしいな」
「はい。おじゃましました」
一人きりの帰り道だった。
思えば、私の隣には必ず紬か佐倉くんがいた。
自分を構成している半分が、すっかり消えてなくなってしまったような空虚な気持ちになった。
頬に触れた水滴に驚いて顔を上げると、それは鉛色の空からとめどなく落下してきた。
傘なんて持っていないから、徐々に激しくなってきた雨に打たれたまま歩き続けた。
湿った前髪から落ちた雨粒が目に入って、涙がこぼれた。
それが引き金になって一度流れた涙は、止まることを知らなかった。
雨と涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま電車に乗って、危うく乗り過ごしそうになった最寄り駅で降りた。
雨の中傘も差さずに泣きながら歩く女子高生なんて不審者の極みだけど、周りの目を気にしていられるほどの余裕なんてなかった。
鮮やかな色とりどりの傘が街中に連なっているのを見るだけで、佐倉くんとの「花束みたいだね」なんていう会話が蘇ってきた。
雨が、氷みたいに心に冷たく刺さった。
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