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長そうに見えた夏休みは、突入してしまえば一瞬だった。
つい最近終業式をしたかのような奇妙な感覚に包まれながら、久しぶりとは思えない制服に袖を通した。
心もカバンも、羽が生えたように軽かった。
それは間違いなく、佐倉くんのせいだった。
あの夏祭りのことが、昨日のことのように思い出された。
佐倉くんがポニーテールが好きだという話をちらっと聞いたから、去年よりはだいぶ伸びた髪の毛をポニーテールにしてみた。
ちょっと不格好になったけれど、首元が涼しくて夏らしいイメージになった。
何より、紬にちょっとだけ似ていた。
ルンルンで道を歩いていると、突然、地面が消えた。
踏み出した場所に、地面がなかった。
えっと思った途端、私の左足は側溝の中だった。
ズボッというダサすぎる音と共に片足だけ無様に溝に落下した私を嘲笑うかのように、前の家の犬が吠えた。
靴についた泥を払ったけれど、絶妙に湿ったそれは完全には落ちなかった。
せっかく夏休み中にきれいにした靴を、家を出て五分で汚してしまった私の愚かさに呆れた。
いつも通り紬と合流して、残りの道を歩いた。
「これからずっとコンタクトなんだ？」
「うん」
佐倉くんに褒めてもらえたから、というのは内緒だけど。
「夏祭り、あれからどうだった？」
佐倉くんの家でのこと。
屋台でのこと。
花火でのこと。
経験したことの八割ぐらいを、紬に話した。
秘密にした二割は、佐倉くんが全部おごってくれたことと、花火でのひそひそ話のことだ。
この二つは、二人の記憶だけにとどめておく方がいいような気がした。
「楽しかったならよかった」
「佐倉くんも、楽しかったかな」
「Aがそれだけ楽しそうなんだったら、佐倉くんだっておんなじくらい楽しんでるよ。あんまり顔に出さないだけで」
「そうだね」
紬と別れて教室に入ると、佐倉くんはまだ来ていなかった。
いつもなら、部活の朝練が終わって教室に戻ってきているぐらいの時間なのに。
何度チャイムが鳴っても埋まらない隣の空席を見つめながら、授業を受けた。
佐倉くんが休んでいるなんて、初めてのことだ。
少なくとも私が知る限りでは、佐倉くんが学校を休んでいたことはない。
でも誰だって、一日ぐらい体調を崩しちゃう時はあるに違いない。
私だって高校生になってからでも何回か、既に学校を休んだことがあった。
一番最近は、冬で急に冷えた次の日に早退した時だったっけ。
確か、佐倉くんが私の家に来てくれた時。
何かにつけて佐倉くんのことが思い出された。
自分が思っていた何倍も、私は佐倉くんのことが好きなのかもしれない。
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