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見知らぬ人たちに囲まれながらも、何とか空が見やすい位置まで移動した。
食べ終わったかき氷のカップを捨てて、最初の一音を待った。
今日の空は花火に相応しく、雲一つなかった。
その代わり艶やかな満月が、南東の空に浮かんでいた。
「晴れてるね」
「夜に『晴れてる』って言う人いるんだ」
佐倉くんは「晴れてるよ。月出てる」と空を指差した。
思わず「そういうところ好きだな」とつぶやいて、慌てて口を閉じた。
佐倉くんには、聞こえていなかったみたいだけど。
ヒューっという音とともに、火の玉が漆黒の空を切り開いた。
パァン！と、夜空に大輪の花が咲いた。
火の花と書いて、花火と呼ぶ。
本当に、火でできた花なんだなと、実感した。
「ナトリウム」「バリウム」
隣で佐倉くんが、謎の発言をした。
「どうしたの？」
「やっただろ？炎色反応」
「確かにやったけど、何で今？」
「花火の色、炎色反応だよ」
「そうなんだ」
「ほんとに授業聞いてないな」と佐倉くんが苦笑した。
「銅」
ちょうど、緑っぽい花火が打ち上げられたところだった。
「緑？」
「炎色反応は青緑色って言うかな」
「へえー」
確か炎色反応は覚えなきゃいけなかったけれど、化学が苦手な私はきちんと覚えないままにしてしまっていた。
でも、佐倉くんに教えてもらったら絶対に忘れない自信がある。
「これは？」と赤色の花火を指さした。
「ストロンチウムとか、カルシウムとか」
「ストロンチウムとカルシウムね。覚えた」
「何でこんな時にAの勉強に付き合ってるんだろ、俺」
「元々は佐倉くんが言い出したことでしょ」
「そうだっけ」
一通り炎色反応を教えてもらった後は、二人きりの世界で静かに花火を鑑賞した。
もっとも、周りはしゃべり声やカメラのシャッター音で溢れていたけれど。
夏空に開いた花は、こんなにきれいなのに一瞬で消えていってしまう。
でも、その刹那で人を喜ばせる力を持っている。
誰の役にも立たない長い人生よりも、短くても人を幸せにできる人生の方がいい。
そう思うと、花火が心底羨ましくなった。
でも人間に生まれたから紬や佐倉くんに出会えたわけだから、私の人生だって捨てたものじゃない。
そうポジティブに考えることができるようになったのも、二人のおかげだ。
紬の弾けるような笑顔と、佐倉くんの爽やかな笑顔。
一見対照的に見えるけれど、どちらの笑顔も私は大好きだ。
毎日そんな笑顔に囲まれて過ごせている私も、二人を笑顔にできているのかな。
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