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家からだいぶ離れたところで、佐倉くんが急に歩みを止めた。
「大丈夫？」
浴衣の裾を持ち上げながら早歩きしている私に、佐倉くんが声をかけてくれた。
「うん」
「さっきはごめん」
「佐倉くんが悪いわけじゃないし、誰も悪くないよ」
「言ってないことあったから話ややこしくなってた」
「紬のこと？」
「まあ、そうだな」
「別れたこと、知らなかったんだ」
「俺が言ってなかっただけ。付き合ってたのも言ってはなかったけど、どこからか勝手に情報仕入れててなぜか知られてた」
「まあ、親には言うものじゃないよね」
暗がりの中、学校の帰り道とはまた違った気持ちで道を行った。
「かわいい」
佐倉くんが、はっきりとそう言った。
「えっ？」
隣に並んでいるだけでもドキドキしているのに、いきなりそんなこと言われたら昇天してしまう。
「浴衣、似合ってる。コンタクトも、全部」
言っている方も気恥ずかしいのか私の顔を見てはくれなかったけど、それだけでもう十分すぎた。
「……ずるい」
「は？」
「佐倉くんも、カッコいい」
「何だよ急に」
「それはこっちのセリフでしょ」
二人とも、笑顔になった。
「でも、ありがとう」
「いつもと全然雰囲気違ったから、一瞬誰かと思った」
「私も思う」
「似合ってるから全然いいけど。それ、何の柄？」
「何だと思う？」
「暗すぎて見えないだろ」
「ヒントはね……名前」
すぐに答えを教えるんじゃなくて、ワンクッション置くということを覚えた。
その方が私だって、楽しい。
佐倉くんと話す時間が増えるから。
「名前？」
「名前、言って」
「佐倉想」
「正解」
「……サクラソウ？」
「うん」
「今、夏だろ？」
「紬が佐倉くんと行くんだったらって言ってくれたから、これにした」
何かを思い出したように佐倉くんがスマホを取り出して、ライトを点けた。
真っ白な光が、スポットライトのように浴衣を照らし出した。
「きれいだな」
歩きながら私の浴衣をあちこち照らす佐倉くんが、面白かった。
「普通のTシャツしか着てない俺と並んだら、違和感しかないな」
「佐倉くんは、何着ててもカッコいいから」
「……反則」
「えっ？」
「レッドカード。一発退場。俺の脳のキャパ超えること言うなよ、さっきから」
私だって佐倉くんの言葉のせいで情報過多になって、思考回路がショートしてしまっている。
「もうオーバーしたんだったら、これから何言っても大丈夫だよね」
「何だよ、その謎思考」
夜空の下で表情は見えなかったけれど、声だけで何となく想像できてしまった。
だって、つないだ手は、今までにないぐらい熱かったから。
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