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不思議だ。
浴衣を着るだけで、自然と気持ちが引き締まったような気持ちになる。
浴衣が、自分の内面までも美しく塗り替えていくみたいだった。
制服とも部屋着とも違う感覚に戸惑いながらも、サクラソウの模様を確かめるように鏡台の前でくるっと一回転してみた。
長くてゆったりとした袖が、ふわりとひらめいた。
その流れで、カーテンを開けた。
外で待ってくれていた紬が、パッとスマホから顔を上げた。
「かわいい！最高！」
待ち構えていたかのように、紬が私にスマホを向けた。
軽快なシャッター音が何回か鳴り響いて、紬がさらに笑顔になった。
「佐倉くんに送っとく？」
「いいの？」
「ネタバレしないように、明日送るよ」
「ありがとう」
紬につれられて貸衣装店にやってきた私は、人生初の浴衣を身にまとった。
髪もお団子にして、浴衣に合う煌びやかな髪飾りをつけてもらった。
さらに……。
「今日眼鏡じゃないんだ」
「うん。初めてコンタクトつけた」
「普段とイメージ違っていいね」
小学生の頃からつけていた眼鏡を、コンタクトにした。
薄くて透明な膜二枚でメガネの代わりになるなんて信じられなかったし目に入れるのは怖かったけれど、やってみたら案外すぐにできた。
眼鏡が曇ったり汚れたりする心配もなくなって、すごく楽になった。
浴衣姿も相まって、何だか自分が自分じゃないみたいだった。
「佐倉くんからLINE来た」
紬が、着信音に反応してスマホを開いた。
「『駅人多そうだから、待ち合わせ場所俺の家でいい？』だって」
「佐倉くんの家、知らない」
「私が案内しようか？」
「時間大丈夫？」
「塾あるけど、案内する時間ぐらいならある」
「じゃあ、お願い」
紬が「分かった」と言って、佐倉くんに返信した。
「『Aに聞いた？』だって。今隣にいるのに」
笑いながら紬が「今一緒にいる」と送ると、佐倉くんからは「了解」と一言だけ。
「じゃあ、行こっか」
「うん」
店に入った時は高い位置にあった太陽はもうすでに、ビルの奥に消えようとしていた。
これから佐倉くんに合うんだと思ったら肩に力が入りすぎて、何を話していいものなのかも分からなくなってしまった。
そんな私の様子を察してか、紬は「楽しんでね」とだけ言って帰っていった。
約束まではまだ時間があったから、広い佐倉くんの家の前の庭に咲く花をぼんやりと眺めながら佐倉くんが出てくるのを待った。
ガチャッと、扉の開く音がした。
約束の時間にしては早いような気がして、玄関へ視線だけを向けた。
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