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用意は事前にしておく。
佐倉くんと遊園地に行った時、そんな当たり前のことの大切さを思い知らされた。
同じ失敗を二回も繰り返すのは、愚か者だ。
行き日はもう決まっているんだから、今回はきちんと前もって準備しておかないと。
でも、家には前に着ていったワンピースしかない。
新しい服を買うにしても、普段制服と部屋着で過ごしている私がそれを着る機会は二度と訪れないだろう。
自分一人で考えていてもどうしようもなくて、そういう系の相談に乗ってくれる人に助けを求めた。
「——っていうことなんだけど、何かいい案ない？」
「夏祭りに着ていく服……といえば、やっぱりあれしかないでしょ」
「あれ？」
「浴衣に決まってるじゃん、浴衣」
「浴衣!?」
浴衣なんて人生で、着たこともない。
「A絶対似合うって」
「どこで買うの？」
「一回しか着ないんだったら、借りたらいいよ」
「そんなところあるんだ」
「貸してくれるところあるよ。私もついていくから」
「いいの？」
「うん。そういうの、好きだから」
つくづくいい友達を持ったなと思った。
相談に乗ってくれるだけでなく、的確なアドバイスまでしてくれる。
目が回る速さでフリック入力をしていた紬が、スマホで開いたサイトを見せてくれた。
写真しかないけれど、きれいな浴衣たちがたくさん並んでいた。
浴衣って、こんなに色んな柄があるんだ。
朝顔、金魚、蝶々、向日葵……。
それらの柄が、上品な色使いで布地に染め上げられていた。
「これ、どう？」
紬が指さしたのは、薄い水色の生地にピンクや薄紫の桜に似た花の模様が施されているものだった。
「これって……サクラソウ？」
「うん。夏っていうと微妙だけど、佐倉くんと行くんでしょ？」
「えっ、あっ、そういうこと……！」
「そういうこと。いいんじゃない？」
いたずらっぽく紬が笑った。
「予約とかできるの？」
「うん。私のスマホでやっておくね」
「ありがとう」
「Aの浴衣姿、楽しみ」
「私も」
人生初の浴衣をこんなところで着ることになるなんて、思いもしなかった。
浴衣や着物は美人な人が着ている印象だけど、本当に私なんかが着ていいのかな。
何なら紬が着た方が、何倍も似合う気がした。
紬も着ない？と誘ってみたけど、「私はいいよ。Aが着たらそれでいいんだよ」と言われた。
そもそも夏祭り自体、前を通り過ぎた記憶しかない。
夏祭りと浴衣という未知数な体験をダブルでできるという事実に、ワクワクした。
サクラソウを身にまとう私は、佐倉くんの目にはどんな風に映るのだろうか。
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