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夏休みが、気づけば目の前まで迫ってきていた。
昨日部室で紬と夏休みについて話していたら、お花見に行った時のことが思い出された。
紬の声で「頑張れ」が脳内再生された。
佐倉くんを夏祭りに誘うのは、もちろん勇気がいる。
でもそれ以上に、佐倉くんと夏祭りに行きたいという気持ちの方が何倍も強かった。
その日は予定が入っているかもしれない、既に他の人と行く約束をしているのかもしれない、と不安はあったけれど、とにかく聞いてみないと何も分からない。
今までの私だったら間違いなく諦めていたけれど、佐倉くんに出会ってからは変わった。
昨日紬からもらった夏祭りの案内を二枚握りしめながら、大きな変化をまじまじと実感した。
部活終わりの佐倉くんと、玄関で合流した。
「A、いたんだ」
「うん。一緒に帰りたくて」
これも別に嘘じゃないけど、本来の目的は違うところにあった。
夕暮れに、手をつないで歩いた。
「佐倉くん、夏祭り行かない？」
「夏祭り？」
「うん。これ見て」
パンフレットを一枚、佐倉くんに渡した。
「ここ、桜がすごいきれいなところじゃん」
「行ったことあるの？」
「一度だけ。夏祭りは行ったことないけど」
「この日、行かない？」
何日か夏祭りは行われているけれど、用事などがあって行ける日が一日しかなかった。
佐倉くんは、大丈夫だろうか。
「いいよ。どっかで待ち合わせる？」
「いつもの駅のホームに六時でいい？」
「うん」
「ありがとう」
案外あっさりと承諾してくれた佐倉くんに、拍子抜けした。
「Aから誘ってくるの、珍しいよな」
「確かに」
「うれしかった。誘ってくれて」
「えっ」
「楽しみ」
佐倉くんの顔は、夕陽のせいだけにはできないほど紅に染まっていた。
そしてそれをごまかすかのように、私の手を強く握りしめてきた。
「力強いんだけど」
「ごめんごめん」
私も仕返しのつもりで、精一杯佐倉くんの手を握り返した。
でも佐倉くんは、余裕そうな涼しい表情のままだった。
「手痛くなってきた」
「そういうとこなんだよな」
「どういうところ？」
「そういうところはそういうところ。分かってるだろ、ちょっとは考えろ。全部俺が答えるの恥ずかしい」
「はーい」
佐倉くんのガッチリした手は、何でも包み込んでくれる布団みたいだった。
血行が悪いのかいつも指先まで冷え切った私とは違って、佐倉くんの手のひらはいつもあたたかかった。
濃い橙色の二人の影が、長く地面に伸びていた。
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