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「暑っ……」
体中に灼熱の太陽を浴びた私は、鉄板の上に落とされたアイスクリームだった。
体育の授業は四クラス合同で、ちょうど紬と同じ時間なのが唯一の救いだった。
「こんな暑い日に外で体育させるとか、絶対殺しにきてるでしょ」
「確かに暑いよね」
「紬見てると、あんまり暑そうじゃないみたい」
体操服の袖で汗を拭う紬は、爽やかな笑顔だった。
「一応元テニス部だから。こんな中、よく試合なんてやってたなって思うけど」
「溶けそうー」
「アイスクリームみたい」
紬も私と同じこと、思ってるんだ。
授業前なのにへなへなと日陰へ避難する私の様子は、紛れもなく液体になったアイスクリームだった。
このまま気体になって蒸発したらな……なんてどうでもいいことを考えていると、授業開始を告げる残酷なホイッスルの音が鳴り響いた。
「行くよ」
「うん……」
全然気は進まなかったけど、紬に手を引かれて仕方なく列に加わった。
「ほら、そこに佐倉くんいるよ」
「すぐ並ばなきゃ」
「佐倉くんのこと持ち出したら話早いね」
紬が笑いながら、耳打ちした。
しかもその時ちょうど、佐倉くんと目が合った。
一瞬で顔が熱くなったのが分かったけれど、照り付ける太陽のせいということにしておいた。
「暑っ……」
授業が始まる前よりも水分の抜けたアイスクリームになった私は、水筒に飛びついた。
「水気なくなったアイスクリーム……」
思わず独り言を言ってしまった。
「スライムみたい」
「えっ？」
後ろにいた佐倉くんに、スライムみたいだなんて言われてしまった。
「見た感じ、明らかにスライムだろ」
「このまま溶けるかも」
「もうすぐ夏休みだから、体育から逃げられるけどな」
「ほんとだ」
あと二週間もすれば、夏休みだ。
体育とも一ヶ月、おさらばだ。
「相変わらず分かりやすいな。最高って顔に書いてる」
「単純な女で悪かったね」
佐倉くんとどうでもいいことを言い合っていると、だんだん汗も引いてきた。
「あと三分で授業だ」
二人とも慌てて、更衣室へと走った。
既に誰もいなくなった更衣室で一人、涼しくもない制服に着替えた。
男子の更衣室は、壁一枚隔てた横だ。
佐倉くんが、真隣にいる。
変な実感を伴った考えが降りてきたのを、首を振ってごまかした。
暑さで頭おかしくなった……？
夏休み。
夏祭り。
佐倉くん。
「あと一分で授業」
佐倉くんの声にハッとして、丸めた体操服を袋に詰めながら更衣室を出た。
次の時間先生が、男女ともに更衣室を施錠していなかったことに怒っていた。
その時お互いバツが悪そうに顔を見合わせたことまでもが、いい思い出だった。
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