サクラソウの花言葉Ⅱ【silent】 (ページ32)

今日:91 hit、昨日:98 hit、合計:69,418 hit

82 ページ32

その次の日も雨が降ったけれど、逆に降りすぎて大雨警報が発令された。

結局十時になっても警報は解除されなくて、休校になった。

私の願いが強すぎたのかな。

窓辺には逆さまに吊るしたてるてる坊主が二つ、寂しそうに揺れていた。

それから何回か、佐倉くんと一緒の傘に入る機会があった。

私があえて傘を持って行かずに、部活終わりの佐倉くんを待っていただけだけど。

最初は二人とも口数が少なかったけれど、回数を重ねるごとにいつも通り、いや、いつも以上にたくさん話すようになった。

私はいい意味で、一つの傘の下という特殊かつ距離の近い独特の環境に慣れなかった。

何回二人で同じ傘にいても、胸のドキドキが止まらなかった。

佐倉くんが持ってくれていた傘の柄を私が代わりに持ったけど、佐倉くんの身長と私が持つ傘の高さが合わなくて「この体勢きつい」と笑われた。

だから傘を持つ佐倉くんの手の上から自分の手を重ねてみたけど、「手冷たすぎ」と驚かれた。

風の強かった日には傘が反対になってしまって、二人とも盛大に雨をかぶってしまった。

その後二人で「冷たい」「寒い」を連呼しながら帰ったっけ。

雨の日は気分が沈んでしまうことが多かったけれど、佐倉くんと同じ傘で帰れると思うと、むしろ雨が降るのを楽しみにしている自分がいた。

佐倉くんは普段から私ほどワクワクしているのかどうかも分からないクールな表情を貫いていたけれど、私と一緒の傘にいる時は嘘みたいによく笑ってくれた。

毎回家まで送ってくれたし、また一緒に帰ろうという約束をした。

雨の降る日なんて予想もできないのに、お互いの小指を絡ませたらまたいつか、佐倉くんの傘の中での時間を共有できるような気がした。

梅雨が明けてからも黒い佐倉くんの傘が私の白い日傘に変わっただけで、傘の下の時間は続いた。

一目見て女子のものだと分かるフリルのついたかわいい傘でも、佐倉くんは嫌な顔一つせずに入ってくれた。

サッカーをしているぐらいだから日差しなんて気にならないだろうけど、「日傘って意外と涼しいんだ」と感心していた。

しかも梅雨の時と変わらず、傘の柄を握ってくれた。

身長差を考えたらそうしないといけないのは分かっていたけれど、やっぱりありがたかったしうれしかった。

夏が近づいて日が長くなってきても、夕焼けをバックに佐倉くんは私を絶対に家まで送ってくれた。

いつしか佐倉くんを見送った後マンションの小さな窓を開けて、帰る佐倉くんの背中に「バイバイ」と手を振るところまでがセットになった。

気づいてくれなかったことが多かったのがちょっと、ううん、だいぶさみしかったけど。