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佐倉くんと廊下を歩いていると、スマホの着信音が鳴った。
「もしもし。うん。分かった」
ものの数十秒で着信を切った佐倉くんが私に、「紬今無理っぽいから、いけるようになったらまたLINEしてくるって」と言った。
「ぼっちじゃん、どうしよう……」
「暇なのか」
「そういえば佐倉くんは、さっきまで何してたの？」
「ずっとSnow Man聴きながらスマホ見てた」
「誰かとどっか回らないの？」
「今のところその予定はない」
「戸川くんは？」
「湊斗と中学校一緒で仲いいやつだから、出会ったばっかりの俺が一緒に行くのは気まずい」
「そっか。あと、今日の昼までしか使えないチケット紬の分も預かってるんだけど、どうしたらいいか紬に聞いてくれない？」
「了解」と佐倉くんがLINEを送った。
しばらくして「昼までには帰ってこれないから誰かにあげちゃっていいよ。ごめん」と返信がきた。
二人で佐倉くんのスマホを見ていると、「佐倉くんもらってあげてよ。無料でいいから」とさらにメッセージが表示された。
送られてきたパンダが手を振っているかわいいスタンプを確認した後、私は佐倉くんにチケットを渡した。
チケットに印刷されているとおりの売店に行って、商品を引き替えてもらった。
「お待たせしました。ワッフル二つです。文化祭、楽しんで」
全く知らない人にそんなことを言われて、二人で顔を見合わせた。
「これ見て」
佐倉くんがワッフルの上を、指さした。
「これって、ハート？」
「だよな」
ピンク色をしたイチゴソースが、ハート形になるようにかかっていた。
「文化祭楽しんで、だって」
「楽しんで、か」
「せっかくだから、楽しもうよ」
本当はダメだけど空席がないのをいいことに、歩きながらワッフルにフォークを刺して口に運んだ。
「う〜ん、おいしい！」
焼きたてのワッフルから出ている湯気が、私を幸せな世界へと誘った。
「サクサクしててうまいな」
完全に食べ歩きモードのまま、お皿を持っていつも昼休憩に行く場所へと向かった。
着く頃にはお皿は空っぽになっていたけれど、少し落葉しかけた木の下のベンチに座った。
「そういえば思ったんだけど、佐倉くんのスマホの着信音って『君の彼氏になりたい。』なんだ」
「あっ、うん」
「無理無理無理無理やっぱ無理〜って聞こえてきたからびっくりした」
「君彼大好きなんだよな」
「分かる。最高」
「新曲聴く？」
「うん」
前みたいにイヤホンを渡してくれるのかと思ったら、佐倉くんはイヤホンを持ったまま私の耳に、それをそっとつけてくれた。
Secret Touchの星空みたいなメロディーに、耳が喜んだ。
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