77 ページ27
新学年一番最初の行事が、始まった。
高校二年生全員が体操服に着替えて、男子はグラウンド、女子は体育館に集合した。
新しいクラスで最初からグループがほぼ確定している中に入っていく勇気もなく、開会式もどきの先生の話などを聞いた後、私はすぐに紬を探しに行った。
人ごみの中で「紬！」と呼ぶと、「A！」と笑顔で手を振ってくれた。
幸い紬の周りには、誰もいなかった。
「紬はいつ出るの？」
「一試合目。戻ってる時間ないかも」
「じゃあ、しっかり見ておくね」
「私、バスケそこまで得意じゃないんだよね」
「紬の苦手は、私からしたら超上手いよ」
今日は丸一日、クラスマッチで強制的にバスケをさせられる。
あんな硬くて重いボールが顔に当たったら、眼鏡なんて粉々に砕け散ってしまいそうだ。
運動神経が悪いなりにも、何とかして顔だけは守らなければいけない。
紬と別れて、一人観覧場所へと戻った。
すぐに試合が始まって、私は必死で紬を目で追った。
緑のゼッケンをつけて颯爽と走る紬は、すぐに見つかった。
誰かがふいに投げたボールを空中でキャッチして、そのまま華麗なドリブルをしながら次々に相手を交わした。
そしてその流れのまま紬の手から放たれたボールは、美しい放物線を描いたままゴールの中心へと吸い込まれていった。
一連の洗練された動作に体育館にいた全員が思わず拍手して、どよめきが起こった。
それからも紬は何点かゴールを決めて、その試合に勝利した。
「紬、お疲れ。すごかったよ」
体操服の袖で汗を拭いながら歩いてきた紬に、そう声をかけた。
「ありがとう。Aはいつ出るの？」
「昼休憩が終わってから一番最初」
「じゃあ、まだ時間あるから外行かない？」
「外？」
「うん。男子サッカーやってるよ」
紬に連れられて、グラウンドのテント付近に向かった。
既に何人か女子が陣取っていたのを見て、彼女たちとは反対側の体育館からは少し離れた場所に落ち着いた。
「今どこのクラスやってる？」
「知らない。あっ、見て」
「佐倉くんじゃん」
みんなの中心で、足で細かい動きをしながらボールを操っている佐倉くんが見えた。
その少し先には、白いゴールが口を開けて待っていた。
佐倉くんが突然集団を抜け出して、誰にもパスを回さずに、ゴールから比較的遠めの場所から一直線にボールを蹴りこんだ。
白と黒の物体が、光顔負けの速度で空気を切って、空を飛んだ。
バーン！とネットが大きく揺れる音がした。
あまりにきれいなシュートに、心を奪われた。
普段は見ることのない佐倉くんの姿が新鮮で、神々しくて、眩しかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 496人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
