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新学年になって変わったことも多かったけど、一つだけ変わらない事実があった。
私のそばに、佐倉くんがいてくれること。
真横でお昼ごはん代わりの菓子パンを頬張りながらスマホを触っている佐倉くんの横顔を、眺めた。
青葉の茂った木々を背景と考えると、またしても佐倉くんが絵画から抜け出してきたかのような印象を受けた。
「何か視線感じるんだけど」
あまりにも長時間見つめ続けたせいで、それに気づいた佐倉くんが不満げな顔をした。
その姿ですら、何だかかわいくて愛おしい。
「絵になるなって」
「絵？」
「佐倉くんと、その周りの木とか。ヨーロッパとかの絵画でありそう」
「印象派か。もうちょっと明るい方がそれらしく見えると思うけど」
「確かに今日は若干曇ってるしね」
晴れている時よりも弱めの光が、佐倉くんと自然との同化を促進している気がする。
佐倉くんが本当に、ごく普通に、ずっとこの場にいたみたいだった。
それほどに何の違和感もなく、ここの異世界じみた環境に溶け込んでいた。
そのまま樹木や草花に飲まれて消えてしまいそうなほどに。
佐倉くんはいつか、ふっと消えてしまうのかもしれない。
そんな予感が突然、私の胸に舞い降りてきた。
人目を惹くスタイルとルックスだけど、仲のいい子以外としゃべっているのを見たことがないし、積極的で存在感がしっかりあるわけじゃない。
佐倉くん自身、私と同じく空気でいることを望んでいるんだと思う。
色も刺激臭もある塩素ではなく、地球上どこにでもある目にも見えない空気でいることを。
ただ私にとっての佐倉くんは、空気じゃなくて酸素だと思う。
私が生きる上で、絶対に必要なもの。
気体の状態では目に見えないから空気と同じだけど、冷やして液体にしたら青色に変わって目視できるようになるから注目される。
実際液体酸素は、ロケットの酸化剤や医療現場で使われているものだし。
でもそれは、酸素をマイナス百八十三度まで冷やさないと作ることはできない。
特別な装置がない限り私たちの手では作り出すことのできない、超低温。
酸素の佐倉くんは無理に冷やされて液体にされ、みんなから視線を浴びることは好んでいない気がする。
もちろん需要はあるけれど、それでも気体でいることを選ぶのが佐倉くんの生き方だと思う。
ただの空気でしかない私の隣に、いてくれるんだから。
「酸素なのかな」
「は？」
「佐倉くん」
「酸素？何で？」
「考えてみて。私は空気ね」
「何それ。超難問」
「消えないでね」
「いきなり？」
「何となく伝えたかっただけ」
私の「消えないでね」に、佐倉くんは「うん」と返事をしなかった。
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