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サクラソウが見頃を迎える季節になった。
今年は桜の開花が遅かったからか、去年よりもたくさんの花が散らずに残っていた。
いつもお弁当を食べている場所では、桜とサクラソウの夢の共演が繰り広げられていた。
大木の桜と、三十センチぐらいしかないサクラソウ。
花の形も色も違うけれど、それぞれ精一杯花弁を広げていた。
そんな異世界みたいな空間で、ベンチに座っている佐倉くんがいた。
桜と、サクラソウと、佐倉くん。
三つ目の「さくら」を見つけて、私の心の中にも桜が咲いた。
しかも佐倉くんの身長は、桜とサクラソウの中間だ。
絵画の一部を切り取ってそのまま持ってきたみたいな、世界一美しい光景だった。
「食べないのか？」
スマホから顔を上げた佐倉くんが、そう言った。
「あっ、ごめん。食べる」
「見とれてた？」
「何に？」
「俺に？」
「……それも、あるけど」
「あるんだ」と佐倉くんが笑った。
「聞きたいことあるんだけど」
「何？」
「佐倉くん、私にくれたチョコの中に手紙入れてたよね」
「手紙って言えるほどのものじゃないけどな」
「お返しの中に返事らしきもの入れたんだけど、読んだ？」
「うん。しっかり読んだよ」
「よかった。佐倉くん何も言わないから、気づかずに捨てられちゃったかと思った」
「そんなことするわけないだろ。大切なものだし」
「その、返事の返事って、どう……」
「もう少し先になるかも。ただ、返事は決まってる」
はっきりと、即答された。
「ほんと？」
「うん。だいぶ前から決めてた」
「分かった。待つ」
「青羽と正反対だな。急かさないところ」
「そうなの？」
「急かしてくれなきゃいけない時だってもちろんあるけど、今回みたいに待ってくれるほうが助かる時もある」
「なるほどね」
私は、何でも受け身だ。
積極的に自分からアクションを起こそうとはしない。
たぶん紬とは真逆で、佐倉くんとは同じタイプだ。
佐倉くんと一緒にいた時の紬と今の紬の間に、明確な違いは見えない。
あの頃から明るくて、活発で、そしてかわいい子だったのだろう。
佐倉くんの話から、紬のことを色々想像してみた。
紬とタイプの真逆な私の隣にいてくれる理由はまだ分からないけれど、その手がかりを見つけたくて。
あの日紬に頼まれたことだって、あるし。
佐倉くんの謎を解き明かすのにまだまだ時間はかかりそうだけど、残りの高校生活の中で見つけていけばいい。
何はともあれ、私への返事を決めてくれていたということが、一番うれしかった。
どんな返事かも分からないのに、知らず知らずのうちに内容を想像してしまっている自分がいた。
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