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目の前に広がるのは、わずかに花を咲かせている桜と雲量8の空。
雲量8の空はほぼ雲に覆われているけれど、気象庁によると晴れの分類になるそうだ。
気象予報士になるわけでもないのにそんなことを考えながら、桜の花びらが張りついたアスファルトを歩いた。
スマホを片手に桜の木に寄りかかっていた紬が、私に気づいて顔を上げた。
佐倉くん同様、こちらも絵になるレベルの美しさだ。
「紬と一緒のクラスでいられるのも、最後かもしれないんだね」
「そうだね。クラス離れちゃったら寂しい」
私と別々のクラスになることを「寂しい」と伝えてくれたという事実が、心からうれしかった。
自分が誰かから必要とされているんだ、という実感が湧いてきた。
期待と不安が入り混じった気持ちで、一緒に新クラスを見に行った。
「Gだ」
「私、Aだ」
「離れちゃったね」
「科目選択の影響もあるのかな」
「それはあるよね」
科目選択で私は理系、紬は文系を選択した。
これを見る限り、文系はA、B組に固められていた。
私のクラスであるG組は、理系の中でも少しレベルの高いことをやるクラスだ。
数学が大の苦手な私があえてこのクラスを選んだのには、もちろん理由がある。
「佐倉くんと同じクラスじゃん」
「うん。選択科目も全部一緒だし」
そう。
佐倉くんがこのクラスを選択したと聞いたからだ。
不自然にならないように佐倉くんに選択科目も聞き出して、私もこっそり同じものを選んだ。
幸い物理よりも生物、日本史よりも地理の方が得意なのは私も同じだった。
問題は、そんなハイレベルなクラスの授業に私がついていけるかどうかだった。
今となっては不安でいっぱいだけど、科目選択の用紙を提出した時はそんなことは全く気にならなかった。
「そろそろ時間かな」
「うん。じゃあ、またね」
「またね」
紬はすぐに廊下を歩いていた女子の集団に交ざって、A組の教室へと向かった。
佐倉くんしか知り合いのいないこのクラスで、友達なんてできるんだろうか。
周りはみんな天才ばっかりだから、尚更。
「行かないのか」
振り向くと、登校してきたばかりの佐倉くんがいた。
「同じクラスか」
「嫌だった？」
「いいや」
その後佐倉くんが「むしろうれしい」とつぶやいたのを、私は聞き逃さなかった。
「勉強分からなかったら教えて」
「うん。ほら、行くぞ」
聞こえてきたチャイムの音に、背中を押されるようにして教室に入った。
教卓にいた先生と目が合うと、「またお前らか」というような顔をされた。
私と佐倉くんの席はまたしても隣同士で、勝手に運命を感じた。
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