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桜の木の下には屋台が所狭しと並んでいて、夏祭りを思わせるような雰囲気を作り出していた。
「何か食べる？」
「うん」
雲みたいにふわふわな綿菓子にカラフルなかき氷、揚げたての唐揚げ。
カラフルなスーパーボールやぽよぽよしたヨーヨー、パンッという心地よい音のする射的。
幼心に憧れていたけれど何かと理由をつけられて、屋台で何かを買ったり遊んだりしたことは一度もない。
今から考えたらある意味当然の対応だったけれど、当時はそれが不満で仕方がなかった。
「これ、食べてみたい」
「私も買おっかな」
私が買ったのは、りんご飴。
紬は、みかん飴の方を買った。
割りばしに刺さったそれは赤というよりも紅色に近い球体で、表面は光沢があってつやつやしている。
小さい時に見て、こんなに美しい食べ物があるのかと感動した記憶がある。
それが今、目の前にある。
その事実に、胸が躍った。
「食べないと溶けるよ」と紬に促されて、一口齧ってみた。
パリッというコーティングされた砂糖が割れる音とともに、りんごの酸味がふわっと広がった。
「おいしい！」
「おいしいね」
だんだん溶けてくる砂糖と格闘して手をべたつかせながらも、何とか残りのりんご飴を食べた。
甘味と酸味のバランスがいいからか、ぺろっと一個丸々食べられてしまった。
「夏祭り気分だね」
私が思っていたことを、紬が言った。
「夏祭りも紬と行きたい」
「いいけど、そういうのは私よりも相応しい人いるでしょ？」
「相応しい人？」
「分かってるでしょ。佐倉くんだよ、佐倉くん」
「誘うの？」
「頑張れ」
佐倉くんと二人で夏祭りに行く姿は、まだ想像できなかった。
私が佐倉くんを誘っている姿なんて、余計に。
去年の夏休みの遊園地だって、佐倉くんの方からだったし。
「ここで夏祭りやってるから、来たらいいんじゃない？」
「ここでやってるんだ」
「うん。花火も上がるよ」
やたらと夏祭り事情に詳しい紬に驚いた。
もしかしたらだけど、佐倉くんと来たのかもしれない。
ということは、お花見も……？
紬は迷いもせずに、佐倉くんに声をかけていたんだろうな。
今日私をここに連れてきてくれたのも、そのため……？
ただ単純に私と行きたかっただけなのかもしれないけれど、一度そう考えてしまうと、そうとしか思えなくなってきた。
そうだとしたら、それは紬の優しさだろう。
できるか分からないけれど、こんな素敵な景色を佐倉くんと共有したい。
桜の木には、満開の夢が咲いていた。
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