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目の前に広がるのは、こぼれんばかりに咲き誇る桜と青い空。
部室前の桜の木はちょうど見頃を迎えて、天へと思い思いに花びらを広げていた。
風に舞う花びらは、どんどん空の彼方に吸い込まれていった。
四月の太陽を閉じ込めたような風が、やっと肩を超えた私の髪の毛を揺らした。
さらに視線を上げると、桜の切れ間から見える空に羽のような雲が浮かんでいた。
日本でも地球でもない、異世界に迷い込んでしまったようだった。
物語のような優雅で煌びやかな光景に、すっかり心を奪われてしまった。
あの雲に乗ったら、どこまでも世界の果てまで飛んでいけそう……。
「……A！」
「……えっ、あっ」
「あっ、じゃないでしょ。さっきからずっと呼んでたのに、全然反応してくれないんだから。どっか違う世界にでも行っちゃったのかと思った」
笑いながらさらっと正解を言った紬に、言葉が出なかった。
「ごめん。帰ろ」
「A、この後暇？」
「うん。どうしたの？」
「じゃあ、来て。この時期に行きたい場所あるんだよね」
いつもと真反対の電車に乗って、知らない駅で降りた。
人波に流されるような格好で、紬に手を引かれながら進んだ。
「着いた」
「ここどこ？」
「言うなら、お花見」
「確かに桜、いっぱいあるね」
「でしょ？人多いから分かりにくいけど、すごいきれいなんだよね。ここの桜」
淡いピンク色に染まった空間の中に、私たちはいた。
舞いあがった一片の桜が、私の目の前に落ちてきた。
手を伸ばして、そっとそれを受け止めた。
私の手のひらの上の花びらは遠くから見るよりもずっと儚くて、触れると消えてしまったあの日の雪みたいだった。
ひらりきらりと踊る桜が、柔らかな日差しを浴びて昼下がりの空に舞った。
すぐに見えなくなってしまう桜は、叶わずに消えてしまう夢みたいだった。
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