67 ページ17
それからまもなく、男子の集団と思われる足音が迫ってきた。
一つ一つは軽やかだけど、それが集まって地響きのような音を立てながら近づいてきた。
私が少し横に寄った瞬間、ドドドドド……と物凄いいきおいで男子の先頭集団が通過していった。
歩いているようにしか見えない私の無様な姿を見られていると思うと恥ずかしくなってくるれど、これが私の精一杯だ。
しゃべりながら走っている子たちのように本当はもっと走れるとかそんなんじゃなくて、本気でこの速度でしか走れない。
単調な薄汚れた灰色のアスファルトを見ていると、気分が滅入ってきた。
周りを見回しても、誰もいない。
ただ、葉を落としたままの街路樹が、寂しく何本か立っているだけだった。
時折聞こえる先生の「頑張れー」の声が、初春の空に空しく響いた。
「あと一周」という声も聞こえてきた。
まだ半分しか走っていないという冷酷な現実に、眩暈がしそうになった。
完走するという目標を紬に掲げてしまった以上、リタイアするわけにはいかない。
だって紬は、十番以内に入るという目標を達成するために今も必死で走っているだろうから。
二番目の角を曲がったところで、後ろからすごく軽やかな足音がかすかに聞こえてきた。
振り向くとそこにいたのは、佐倉くんだった。
見る限り、佐倉くんの後ろには誰もいない。
あっという間に私に追いついてきて、並走状態になった。
「……佐倉くん？」
「あと一周、一緒だな」
一周分の差を埋めてくる佐倉くんのパワーに、度肝を抜かれた。
「佐倉くん速くない？」
「今、トップだと思う」
「私なんかに構ってないで、早く行った方がいいよ」
「Aいると思ってちょっと飛ばしてきたから、ここで休憩したいと思って。当分後ろのやつ来ないだろうし。あそこの角まで、Aとおんなじ速度で行く」
三百メートルぐらいしかなくても、佐倉くんが私と並んで走ってくれることがうれしかった。
「紬、もうゴールしてる気がする」
「青羽運動神経いいもんな」
佐倉くんの足をできるだけ引っ張らないように、少しだけ速度を上げて走った。
「こっから俺一人で行くから、Aも頑張れよ。下じゃなくて、前向いて走った方がいい。じゃあ、ゴールでな」
佐倉くんは私の肩を軽く叩いて、颯爽とした足取りで去っていった。
私の「ありがとう」に片手を上げて答えた後、すぐに次の角を曲がってあっという間に姿が見えなくなった。
佐倉くんのおかげで、何だかもう少し走れそうだ。
紬と佐倉くんの待つゴールへと、止まることなく歩みを進めた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 496人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
