65 ページ15
「どうだった？」
ホワイトデー当日の部活で、紬が開口一番に聞いた。
「ちゃんと渡せた？」
「うん」
「佐倉くん、どんな反応してた？」
「おいしいって言ってた」
「それだけ？」
「うん」
紬の話もしていたけれど、それは黙っておくことにした。
「無事渡せたならよかった」
「うん。色々ありがとう」
「ううん」
「紬は何で手伝ってくれたの？」
「幸せになってほしいから」
「幸せになってほしい？」
「うん。Aにも、佐倉くんにも幸せになってほしいなって思ってる」
「紬はいいの？」
「私は別にいい。私に幸せをくれた人に、幸せになってほしいから。そのためなら、できる限りのことするよ」
「佐倉くんのことはもういいの？」
一瞬迷った後に、紬がうなずいた。
「その、未練とかはないの？」
「佐倉くんにフラれた時は悲しかったし最初Aと一緒にいるの見た時は何で？って思ったけど、私、佐倉くんのこと嫌いになったわけじゃないんだよね。むしろ、好き。恋人っていう関係じゃなくなっただけで、友達として好き」
晴れやかな笑顔で、紬が続けた。
「戻れない過去を嘆いても意味ないし、Aに文句言うとかしたいとも思わない。私じゃダメな理由を言わないのもある意味佐倉くんらしいし、どこかに影を持っている同士でないと分かり合えないことだってあるのかもしれない」
「どこかに影を持っている同士」という紬の言葉に、納得させられた。
確かに私も佐倉くんも、どんなライトでも照らすことのできない影があるのを感じる。
「私から、Aにお願いがあって」
「何？」
「佐倉くんの影の部分を、照らしてほしい」
「影の部分を、照らす……？」
「そう。誰にだって影の部分はあると思うけど、佐倉くんはあまりにもその面積が広い気がする。本当の自分を十パーセントも出せてない感じ。いきなりは難しいけど、いつか佐倉くんと友達になるには、そこの部分も知らないといけないと思う」
「だから照らすの？私が？」
「Aじゃないとできないと思う。私が頼んだことだし、一人で抱えきれなかったらいつでも相談に乗るよ。気になることとか、何でもいいよ」
「ありがとう。できるか分からないけど紬にはたくさん助けてもらったし、やってみる」
「Aのそういう優しいところ、大好き」
「紬のそういう優しいところ、大好き」
二人で顔を見合わせて、微笑んだ。
佐倉くんのチョコの色や形や香りや味が鮮明に浮かんで、今目の前にそれがあるかのような感覚になった。
実は佐倉くんにあげたガトーショコラの中に、短い手紙を忍ばせていた。
それを見て、佐倉くんはどう思うだろうか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 496人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
