64 ページ14
春とはいえ若干肌寒い空気の中、お弁当を持ってベンチまで向かった。
流石にコートはもう必要ないけれど、昨日まで暖かかったのが嘘みたいに冷たい風が吹きつけてきた。
新しい桜色のカーディガンを羽織っていつもの場所までいくと、佐倉くんもいつも通りイヤホンをしながらスマホを触っていた。
「……佐倉くん」
「何？」
「それ」
佐倉くんのつけているイヤホンを、指さした。
「これ？」
「うん。音漏れしてる」
「あっ、ごめん」
「割と音量大きめだよね」
「そう？」
「私も全然聞こえたもん。音量大きすぎたら耳悪くなっちゃうし、もうちょっと下げてもいいんじゃない？」
人半分くらいの距離があっても、ブラザービートの中毒性のあるリズムがはっきりと聞き取れた。
「これで普通ぐらい。Aかるたやってるから、耳いいだけじゃない？」
「そうかな？」
前に佐倉くんと一緒に音楽を聴いた時も音量大きめだなとは感じたけれど、ここまでだったっけ。
かるたで私の耳が鍛えられただけ？
いつもより急ぎめにお弁当を食べ終えて、震える手でラッピングの袋を手に持った。
「……佐倉くん」
「何？」
「これ」
半ば押し付けるような格好で、佐倉くんに昨日作ったものを渡した。
「Aが作ったの？」
「紬に手伝ってもらったけど、基本私が作った」
「すげー。食べていい？」
「うん」
金色のカラータイをねじって外している様子でさえ、絵になる。
「ガトーショコラ？」
大きい一口で頬張った後、佐倉くんが言った。
「うん」
「おいしい！チョコ甘すぎなくて、ちょうどいい」
「よかった、喜んでくれて」
「青羽、手伝ってたんだ」
「うん。私だけじゃできないよ」
「Aとおんなじようなことしてくれた、青羽のこと思い出した」
青羽は去年のバレンタイン、チョコマシュマロを作ってくれた。
それを渡してもらった時に、告白された。
「好きです」って、一言。
今まで何回も色んな人から告白されてきたけど、付き合うとかそういうのは面倒くさくて、全部断ってきた。
でも、青羽は今まで告白してきた子とは何かが違った。
具体的には説明できないけれど、それだけははっきりと感じられた。
同じ塾になってから数か月ぐらいしか経っていないし、クラスも違ったから会う機会もなくて、青羽は存在を知っているだけだった。
付き合うことになって流れでずっとこのままいくんだと思ってたけど、俺のせいでできなくなった……。
「急に青羽の話なんかしてごめん」
「ううん、全然」
カーディガンのボタンを閉じながら、ガトーショコラを味わう佐倉くんを見つめていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 496人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
