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「紬、助けて！」
「支えてるから、これ持ち上げて」
テーブルの上に無造作に置いた調理器具が落ちそうになって、軽くパニック状態に陥っていた。
紬が下から支えてくれている間に材料の入ったボールを安全な場所に移動させて、混ぜるのを再開した。
今日は、三月十五日の放課後。
紬が家庭部の友達に頼んで、放課後の調理室を使わせてもらっていた。
もちろん、明日のためだ。
前の日に作っておきたいと思ったけれど、一人じゃろくなものができあがらないことに思い当って、紬に一緒に来てもらった。
案の定私だけじゃ何もできなくて、紬が横からアドバイスしてくれたり洗い物を手伝ってくれたりしていた。
紬からしたら友達が自分の元カレにあげるお菓子を作るのを手伝わされていることになるから、本当にこれでいいのだろうかという気持ちにもなった。
でも結局、紬の好意に甘えることにした。
その流れでレシピを探すところから付き合ってくれて、調理も基礎的なことから分かりやすく教えてくれた。
私なんて小さじ一杯が五ミリリットルだということでさえ、さっき初めて知ったレベルなのに。
そんな私が相手でも、紬は否定的な言葉を一つも出さなかった。
逆にずっと面白そうに笑いながら、「今知ったんだから全然いいじゃん」と言ってくれた。
しゃべりながらやっていたから時間はかかったけれど、何とかオーブンに入れるところまでこぎつけた。
しばらくすると、チョコの甘くて心地よい香りが辺りに漂い始めた。
中を確認したいという欲求を何とか我慢して、焼き上がりを待った。
チン！という音と同時にオーブンの扉を開けて、ミトンで慎重に天板を取り出した。
「いい感じじゃない？」
「うん。すごい！」
どうしても味見がしたくて、ふるった粉砂糖をかけた後すぐに、完成したうちの一個を半分に割った。
「まだ熱い」
「さっきできたばっかりだからね」
二人同時に、焼き立てを口に運んだ。
「おいしい！」
お互い顔を見合わせて、笑顔を浮かべた。
ふわふわの生地とチョコの香りが、最高のバランスを作り出していた。
焼きたてのお菓子って、こんなにおいしいんだ。
調理の段階でもう既に、充実感と感動を覚えた。
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