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二月十五日の朝。
電車の中で、佐倉くんに託されたものを紬に渡した。
「えっ、何？」
「佐倉くんから。妹の分の余りだけど、佐倉くんも作るの手伝ったって言ってた」
「そうなんだ。Aももらった？」
「うん。おいしかった」
「確かに見た目からしてクオリティー高いの分かるな」
紬が感心したように、袋の中のチョコを見つめた。
「あっ、そうだ。これ見て思い出した」
紬がカバンの中から何やら包みを取り出して、「これ！」といきおいよく私の手にのせた。
「これ、紬が作ったの？すごい……！」
「うん。ちょっと失敗してるとこあるんだけどね。昨日の帰りに渡そうと思ったまま、渡せなかったから今日になっちゃった」
「ごめんね」
「ううん。Aが謝ることじゃないよ。勝手に帰ったのは、私だから」
「佐倉くん、『青羽の分もあるから、いたらよかったのに』って言ってた」
「佐倉くんとのことは、Aを通してでいいよ。預かってきてくれてありがとう」
「うん」
「佐倉くんに何か言われたりしたの？」
「何か？」
「ほら、だからさ、愛の告白とか」
紬が身を乗り出して、質問してきた。
「ううん、特に何も」
「ほんとに何も？」
「伝えたいことあるんだけど、もう少しだけ待ってて」という佐倉くんの声が、脳内で再生された。
「うん……」という中途半端な返事になってしまったけれど、いずれ私だけじゃなくて紬にも教えてくれるみたいだから、今は言わなくていいという判断をした。
佐倉くんの言う「伝えたいこと」が何なのか、見当もつかないし。
「三月十四日にまた話、聞かせて」
「三月十四日？」
唐突な紬の発言の意図がくみ取れなくて、しばらく考えた。
「あるじゃん、あれ」
「あっ、ホワイトデー？」
「そうそう。A、お返し何にするのか気になる」
いつの間にか佐倉くんにお返しをすることを前提にされていたけれど、私はそのつもりだった。
「料理とか全然できないから、簡単に作れそうなもの探そうかなって思ってる」
「色々頑張って。応援するよ」
「ありがとう」
時分にとって初めてのことだから緊張することなんて分かりきっているけれど、やらないで後悔するよりはいい。
私が笑顔を取り戻せたのは佐倉くんのおかげもあるから、今度は私が佐倉くんを笑顔にしたい。
そんな決意を胸に、電車を降りた。
私に向かって吹いてくる風も、今なら跳ね返せそうだった。
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