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「そろそろ帰れよー。あっ、邪魔して悪かったな」
突然現れた先生の姿を見るや否や、二人ともパッと直立不動の姿勢になった。
「すみません！」
二人の声が、きれいにハモった。
「完成したのか？」
「あっ、いえ、ここだけです」
佐倉くんが慌てて絵の具を出して、すごい速度で彩色していった。
スピードは速いのに全然雑さを感じさせない佐倉くんの技術に、感動すら覚えた。
「……終わりました」
「暗いから気をつけて帰れよ。手つないで佐倉に家まで送ってもらえ」とだけ言い残して、先生が去っていった。
何とも言えない雰囲気で帰っていると、佐倉くんは最寄り駅を降りても私についてきた。
「ほんとに送ってくれるの？」
「顧問の指示だから」と、佐倉くんが私の手をとった。
私はただされるがままに手をつないで、佐倉くんと家まで帰った。
マンションの扉の目の前まで、佐倉くんは私についてきてくれた。
「ここか？」
「うん。ありがとう」
「顧問の指示だから」
「ほんとにそれしか言わないよね」
「だって、事実だろ」
そう言いながらも佐倉くんの頬が赤くなっているのが、私にははっきりと見えた。
チーンと、エレベーターがやってきた音がした。
出てきた人を見て、私は息を呑んだ。
「A、今帰ってきたの？」
「うん」
「何してたの」
「文化祭の準備」
「そう。あの、どちら様ですか？」
私の横にいた佐倉くんに気づいて、お母さんが尋ねた。
「佐倉想と言います。Aさんとは同じクラスです」
「今日はどうしてここに？」
「一人で帰宅するには時間が遅くて危険なので、家まで送りたいと思って」
さっきまでと言ってること違うじゃん、と突っ込みたくなったけれど、グッと我慢した。
「わざわざありがとうございます」
「いえ。自分の家も近いので大丈夫です。では、さようなら」
「さようなら」
お母さんの目の前という手前、「バイバイ」と手を振ることは憚られたけれど、その代わりエレベーターに乗る直前、私に満面の笑顔を向けてくれた。
薄暗いマンションの廊下に、一筋の明かりが差したみたいな、爽やかで眩しい笑顔だった。
その後お母さんには散々問い詰められたけれど、佐倉くんとのことは一切話さなかった。
少なくとも現時点ではまだ、お母さんが想像しているような感じではなかったから。
そもそも佐倉くんが私を送ってくれた真の理由はどっちなんだろうか、ということが私の頭を完全に支配してしまっていた。
〜作者より〜
無事に移行しました！
いつ完結するか分かりませんが、楽しんで読んでいただけたらうれしいです！
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