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「人間はみんな輝く宝石を持っていて、それをきれいに包装して、外からはラッピングだけが見える状態なんだと思う」
佐倉くんの話の糸がつかめなくて、続きを待った。
「中身は基本自分以外の人は見ることができないけど、包装紙が破れたりリボンがほつれたりした時だけ、他の人にも中身がほんの少し見えるようになる。それが見えるどうかは、その人次第だけど」
「中身？」
「中身は自分の本音や本当の気持ちが詰まっていて、人間を構成する重要な部分。外側のラッピングは年齢を重ねるほど雨風にも負けずに中身を守れるぐらい頑丈になるけど、大きなダメージを受けたら、剥がれてしまう」
「剥がれてしまったら？」
「さらに頑丈なラッピングにするには強度の高いものが新たに必要になるけれど、修復されるまでは中身がむき出しになってしまう。その間にさらにダメージを受けたら、壊れてしまう」
「壊れる……」
「それぞれ持っている宝石は違うから、壊れたら二度と元の姿に戻すことはできない。残酷だけど、その時に悔やんでも、もう遅い」
一陣の風が、私たちの間を吹き抜けた。
「俺は感じる。Aの包装紙の角が、少しずつ裂けてきている様子」
「どうすればいいの？」
「我慢するのはダメだけど、今ここで無理に細かいことを言えとは言わない。嫌なこと全部吐き出しても、受け止めるから」
「受け止めてくれるって……？」
「俺も昔受け止められたことがあって、その人が俺に教えてくれたんだよね、この話。その時の気持ちは、一生忘れられない。あの時から、大切な人が苦しんでるのを見過ごすのはやめようって思った」
遠い目をして、佐倉くんが心なしか寂しそうな様子で言った。
答えになってないじゃん、と言おうとしたら、視界が一気にぼやけてきた。
佐倉くんのぬくもりが、しっかりと感じられた。
あの日、どうやって家まで帰ったのかよく覚えていない。
来た電車にどうやって乗ったのか、泣きはらしている私をどうやって家まで帰れるようにしてくれたのか。
ただずっと、佐倉くんは私の隣にいてくれた。
生まれたての小鹿みたいに不安定な私に、寄り添ってくれた。
重ねた手のぬくもりと佐倉くんがしてくれた話とが、ぼんやりと思い出された。
私の『中身』って、いったいどんなものなんだろう。
形にしてみたら、何か分かるのかもしれない。
衝動的に使いかけのルーズリーフを出してシャーペンを持ったけれど、理想と現実の差異が怖くて、手が動かなかった。
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