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「最初は決まり字書いてる札でやってみて」
紬から渡された五十枚の札を、田畑くんとの間に置いた。
「札を開けてください」
「お願いします」
紬の合図でお互いお辞儀をして、札をシャッフルした。
この札の山を崩す瞬間が、すごく気持ちよかった。
「五枚ずつ束にして、それを五セット作ってから全部束ねて、畳一マス分開けて並べて。配置とあは、今は考えなくていいから」
紬のアシストで札を並べて、暗記時間が始まった。
暗記と言っても、何をど覚えれば効率良く覚えられるのか分からない。
「この音が聞こえたらこっちに反応する、って感じ」
「一字決まりの『むすめふさほせ』から覚えて」
二人からアドバイスをもらいながら札を暗記しようとするけれど、やっぱり難しい。
きちんと覚えられている自信なんて欠片もない状態で十三分が過ぎて、素振りができる時間になった。
「払い方教えてないから、そのまま暗記してて」という紬の指示で、暗記を続けた。
「時間になったので、試合を開始します」
「お願いします」
前に見た試合の通りに、相手と読み上げ機に向かってお辞儀をした。
「合ってる合ってる」
紬がボタンを押して、序歌が流れてきた。
序歌は百人一首の中にはないけれど試合の一番最初に決まって読まれる歌で、これを聞くと、いよいよ始まるんだな、という気持ちになった。
気持ちを落ち着けたところで、一音目が聞こえた。
「逢ひ見ての〜後の心に〜くらぶれ〜ば」
聞いたことはある気がするけれど、この札は正確には覚えていなかった。
決まり字は確か、「あい」だった。
二人とも「あい」の札を探しているのが、敵同士なのに同じゴールに向かって進む同志みたいに思えてきた。
「あった」と田畑くんが目的の札にすっと触れた。
私が並べた自陣の三段の札のうち、右上段の一番外側にあった札を、田畑くんが回収した。
こんなこと考えている場合じゃないんだろうけど、その指のきれいさに目が惹き付けられた。
「田畑くん、今相手の陣にある札を取ったから、送り札ができる。手を上げてから、相手に送りたい札を好きに選んで、相手の陣に置いたら、送り札成立ね」
「手はしっかり真っすぐ上げて、札はちゃんと完全に相手陣に入る場所に置いて」
私が送り札をする時も気を付けないといけないだろうから、二人の注意をしっかり聞いた。
田畑くんが手を降ろすと、下の句が読まれ始めた。
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