サクラソウの花言葉【silent】 (ページ4)

今日:8 hit、昨日:24 hit、合計:184,554 hit

4 ページ4

急いで戻ろうとする私を、その人が呼び止めた。

「これ、忘れてるよ」

「あ、ありがとうございます」

あまりにもパニックで、お弁当のことなんてすっかり忘れていた。

「あとそれ、食べないの？」

「えっ？」

「お弁当食べるために、ここ来たんじゃなかったの？」

「あ……」

全部見抜かれてしまっていて、今すぐにでも逃げ出してしまいたい。

でも、目の前にいる彼には、そうはさせないという強い意志を帯びたオーラが感じ取れた。

「俺がいたから食べられなかったんだよね、ごめん」

「いえ、別に……」

「ここ、座りな。さっきのお返し」

「……ありがとうございます」

半径30cm以内に人がいるという状況に慣れなさすぎて、それだけでドキドキした。

しかもそれが超絶イケメンだから、尚更。

震える手でゆっくりお弁当を食べていると、視線に気づいたのかその人が私の方を向いた。

「どうしたの？」

「あっ、いや別に、何もないです……」

明らかに挙動不審だけど、その人は何も気にしていないようだった。

好きな声を間近で聞けるなんてこんな幸せなことが、あっていいのだろうか。

その反動で起こるであろうことを想像すると、今から恐怖心が湧き上がってきた。

スマホを見ながら発せられた「……あっそ」の一言が温もりを感じて、ちょっぴり安心した。

お弁当以外何も持ってきていない私は、無言で目の前の散りかけている桜を見つめていた。

一方隣に座っているその人はずっと、イヤホンをつけたままスマホを触っていた。

二人きりの静かな空間は若干気まずさを孕んでいたけれど、今はそれでいいと思えた。