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「工事中」と書かれた看板の手前にあるベンチへ向かおうとすると、先客がいるのが目に入った。
最悪。
どこか違う場所、見つけなきゃ。
物音を立てないようにそおっと帰ろうとすると、ぬかるんだ地面に足を取られて盛大に転んでしまった。
ベチャッという、嫌な音がした。
その瞬間、ベンチに座っていた人が、イヤホンを外してこちらを振り返った。
ヤバい、気づかれた！
慌てて逃げようとするけれど、足がもつれて上手く起き上がれない。
あっという間に、その人が私の目の前まで近づいてきた。
「大丈夫？」
「あっ、はい…。あっ」
「あっ」
至近距離で顔を見て、気づいた。
入学式で、私の隣に座っていた人だ。
再開できたうれしさと、こんな無様な姿を見られたことに対する恥ずかしさとで、うつむいてしまった。
「さっきはありがとう」
「私、別に何も……」
「隣、座らせてくれたから」
「それは……」
それきり会話が続かなくて、沈黙が訪れた。
「そういえば、制服大丈夫？」
「あっ……」
紺のスカートには泥がこびりついていて、同じ色のブレザーには泥と一緒に落ち葉までひっついていた。
「ちょっと待ってて」
目の前の人はそう言いながらポケットから出した青いハンカチで、汚れているところを拭いてくれた。
ろくにハンカチすら持っていない自分が、急に恥ずかしくなった。
どうしようもなかった私はただ、されるがままの状態で「立って」「後ろ向いて」という声に従っていた。
「まだちょっと汚れてるけど、これでいい？」
「あっ、はい。ありがとうございます」
「ちょっと待って」
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