15 ページ18
「はい。これで大丈夫、気をつけて帰るのよ？」
「はーい！お姉ちゃんありがとう〜！またね！」
「ええ、どういたしまして。また転ばないでね」
「はぁい！」
走り去っていく少女に手を振る姿には見覚えがあった。
よく考えてみると、拠点以外で会うことは珍しいかもしれない。
「…草凪ちゃん？」
「佐伯くん…？どうしたの、こんなところで」
「俺は大学の帰りだけど…草凪ちゃん、いつも忙しそうだから珍しいね。こんなところで見るの」
「私だって気分転換に散歩くらいするのよ？今日は散歩してたら、子供が転んで泣いてるのを見つけて、手当てしていただけ」
「なるほど」
そういえば、この間助けてくれた時も子供に優しかったもんな。納得していると、彼女が僕の方をじっと見ていた。
何かついてる？
「えっと、どうしたの？」
「佐伯くん、髪跳ねてるけど」
「エッ、嘘！？ど、どこ！？どのあたり！？」
「えーと、左側頭部…」
「ここ！？」
「もう少し上」
「な、直った？」
「直ったわよ。…直ったけど、ふふ」
「エッ？」
「朝からだったのかしら。今まで一度も気づかなかったの？」
「いや…ちょっと遅刻しかけて」
「ふふ、なるほどね？」
くすくす笑うAちゃんに呆然とするが、すぐに我に返る。
目を細めて、慈しむような表情の彼女に、少しドキドキしてしまうのは流石にチョロすぎだろうか。
「直ってよかった。…私はもう拠点に戻るけど、佐伯くんは帰るの？」
「う、うん。コンビニでも寄ってこうかな」
「そう。気をつけて。…友人としてはあんまり言いたくないけど、タバコはほどほどにね」
微笑んで去っていく彼女に頷いて、後ろ姿が見えなくなってからため息をついた。
いや俺が悪いんだけど、笑ってる姿をあんまり見ないからか動揺している自分がいる。
「…あんなふうに笑うんだ、Aちゃん」
心臓がうるさい。僕の前では怒っているか、むすっとしていることが多い彼女の優しい笑顔に、こうも動揺するのは、チョロすぎやしないか。
少しずつ理解し始めた彼女の事。そっけない態度が多いけど、優しくて世話焼きで心配性で、かっこよくて可愛らしい人。どこまでも真っ直ぐな信念を抱えて、歩き続ける人。
「……次任務で会っても顔見れるかな」
前に危ないところを助けてもらって笑顔見ただけでドキドキしてんの、かっこ悪くない？
そんなことを思ったって、心臓がうるさいことに変わりないのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 98人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：613 | 作成日時：2024年2月7日 7時
