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そんなことを言う彼女は、俺の知るいつも怒っている彼女じゃなくて、しおらしく見える。多分こっちが素なんだと思う。
…リト君とマナ君は泣いていた彼女を慰めていたのかな。
ヒーローが嫌いなんじゃなくて、彼女はきっと傷つき続けるヒーロー達の「当たり前」に憤っている。そういうことなんだと、ようやく気づいた。きっと、僕以外の7人はそれを知っていて、だから怒っている彼女を見ても、眉を下げて申し訳なさそうにするだけだった。
本当は、きっと。ただ傷つく俺達が心配だっただけだ。
「そっか。…よかったぁ、嫌われてるわけじゃなくて…俺以外には割と普通だったから、俺だけ嫌われてるのかと」
「はっ？そ、そんなつもりじゃ…」
「うん、今わかった。君は優しい人だ。俺達が怪我することを、“当たり前”にしないでくれてありがとう」
「…あなた達ヒーローって無自覚のうちに、自分達が怪我することに慣れて、怪我してもヘラヘラ笑って、“いつものこと”って言うでしょ。だから許せない」
「なる、ほど？」
「ええ。私はあなた達が傷つくことを許さない。いつものことだって慣れてしまえば、体は治っても心が傷つくんだから。それで辞めていくバカもいたわ」
「あ、」
「だから私は、ただ治すんじゃない。心と体を癒す者になるって決めたの。私の前で、死に急がない方が身の為よ」
「…そっか。ずっと前からヒーロー達の治療してるんだもんね」
「そうよ。簡単に死なせない。もう、ヒーローを看取るのは懲り懲りだから」
「……」
彼女の憤りと心配は、彼女の経験からくるものらしいと理解して、彼女の目元の跡がより痛々しく見える。
ヒーラーちゃんの涙は、安堵と心配の含まれたものだったと気づいたからだ。俺が血だらけで運ばれてきた時、酷い顔をしていたらしい。
「生きていてくれてよかった」と、この子は泣いてくれる人だ。
「…まぁ、無茶を反省してるみたいならよかった。西、3人も話聞かないマイペースなのがいるから」
「ああ…」
「…何か言いたいことがあるなら聞くけど。佐伯くんにしては浮かない顔ね？」
「えっと、その…名前で呼んでいい？」
「…ああ。私も気になってたの、頑なにヒーラーちゃんとしか呼ばないから、変だなって。知らないわけじゃないし」
「呼んだら怒られるかなって…」
「私をなんだと思ってるの？」
普段の調子になったAちゃんは、第一印象よりもずっと暖かい、優しく笑う人だった。
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作者名：613 | 作成日時：2024年2月7日 7時
