ご ページ6
名前で呼び合えるようになり、気軽に話せる仲になり、そこでようやく村山は気づいた。
「お前、学校どうしてんの?」
「え?」
Aは相変わらずこの学校では大変目立つ紺のセーラー服だ。皺一つない襟に、綺麗にひだのついたスカート。SWORD地区の外の学校のものであるそれは、Aが村山とは違う領分の人間だということを何より主張してくる。それがすこし気に入らなかった。
だがそんな気も知らず、Aは平然と言い放つ。
「退学だよ」
「…は?」
「退学になった。それで、制服着ないのもまずいかなって思って前のやつを…」
「いやいやいや…まじで?」
「まじだよ」
疑い一つない瞳と、襟の真っ白な校章の刺繍が目に眩しい。
そもそもこの不良校において、制服をちゃんと着なきゃという思想を持っていること自体が異常だと気づいてほしい。いやそれでいいよもう…。
「じゃあマジでこの鬼邪高校に転校してきたんだな?」
「うん。良樹と同じ定時制だよ」
「…え、定時制は男子だけだろ?」
「そこはまあ…学校入る手段なんかいくらでもあるじゃん?」
目を反らすな。目を反らすな!何したんだお前!
Aの前の学校と比べたら偏差値が30くらい減っていると思うのだが、大丈夫なのだろうか。いや、それより。
「…なんで退学になったの」
Aは一瞬気まずげに視線を彷徨わせたが、名前を呼ぶと目を合わせた。
「…殴っちゃったの。男子を。理事長の…息子で」
「ああ…そういう…」
自分には関係がなさすぎて気にしていなかったが、そういえば暴力はいけないことなのだ。人を殴ったり蹴ったりするのは犯罪だ。目から鱗が落ちる感じだった。村山も大概である。
「でも、相手にも非があったんだろ」
「え、なんでそう思うの」
「え?Aはそういう奴だろ」
村山は本当にそう、思ったとおりのことを言っただけなのだが、Aは堪えきれないというように頬を緩めた。うれしい、とちいさな声。
「告白されたの、その子に」
「うん」
「それで、断ったんだけど、執拗に言ってきて。それでも断ってたら、手、つかまれて…」
「うん」
「咄嗟に右ストレートが…」
「決まっちゃったんだな…」
なんと勇ましい女子だろう…この不良校の生徒をワンパンで沈めるような拳だ、軟弱な男子が食らってはひとたまりもないはずだ。
「事情を説明しても大人はみんな信じてくれなくて、退学になったの」
でも、だから、信じてくれて、嬉しい。
Aはそう言ってちいさく笑った。
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臣嫁(プロフ) - 私、轟くん苦手だったんですけど、この話の轟くんは可愛くて愛着湧いちゃいました(笑)更新待ってます!頑張ってください!! (2017年3月27日 12時) (レス) id: 784c0dafd1 (このIDを非表示/違反報告)
遠野助(プロフ) - ユイさん» コメントありがとうございます!雰囲気寄せられるよう考えているので、そう言っていただけるとありがたいです!! (2016年9月6日 23時) (レス) id: 4c0cbcf27c (このIDを非表示/違反報告)
遠野助(プロフ) - なおいちさん» これと、空は青〜の方にもコメントを下さり、ありがとうございます!お話、気に入ってくださってとても嬉しいです!更新遅くて申し訳ないですが、これからも頑張ります! (2016年9月6日 23時) (レス) id: 4c0cbcf27c (このIDを非表示/違反報告)
ユイ(プロフ) - 可愛いー!なんか二人とも可愛いですね!村山さんの雰囲気の出し方がすごくうまくて、ついついにやついちゃいました☆笑 (2016年8月17日 2時) (レス) id: c991eb38ad (このIDを非表示/違反報告)
なおいち(プロフ) - 小説凄い面白くてお気に入りです。話の展開とか書き方が自分的に好きです笑更新頑張ってください!!!楽しみにしてます (2016年8月15日 12時) (レス) id: 65c1787242 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遠野助 | 作成日時:2016年8月9日 3時